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先日まで2回にわたり、アパレル小売企業の決算記事を執筆いたしました。
先日執筆したアパレル小売企業の決算記事で取り上げた2社に共通していたのは、商品の価格上昇でした。その背景には、長引く円安や材料費そのものの価格上昇に加え、海外の人件費高騰といった要因が挙げられます。これらの要因から商品の原価が上昇しているという状況は、今回取り上げた2社に限らず、他のアパレル小売企業においても同様に見られる傾向です。
原価価格の高騰が避けられない状況において、企業が検討すべき対策としては、主に以下の二つが挙げられます。
①商品の値上げ: 販売価格にコスト増を転嫁することで、収益性を維持する方法です。
②材料費削減などによる原価価格の維持: 資材調達先の見直しや製造工程の効率化などを通じて、原価の上昇を吸収する方法です。
それでは、これらの対策がそれぞれどのようなメリットとデメリットをもたらすのか、詳しく見ていきましょう。
商品価格を値上げすることによって得られるメリットは、原価率(値入率)目標が維持でき、目標の粗利率予算を達成しやすくなることです。また、1点単価上昇による客単価の上昇の可能性も高くなります。
一方でデメリットは、(買上)客数の減少を招き、結果として売上低下につながる可能性が高くなることです。特に、商品を値上げする際、MD(マーチャンダイザー)が注意すべき点として、商品の原価価格に基づき、一定の原価率(値入率)で自動的に元売価を設定していると、商品のプライスゾーンが意図せず広がってしまう傾向があります。プライスゾーンの拡大は、ブランドやショップのコンセプトに合致した「適価」の認識を曖昧にし、顧客にとって価格の印象が薄れる要因となります。その結果、MDがブランド・ショップの「適価」を意識しないまま「いつの間にか値上げ」が進行してしまうと、顧客は価格に対して違和感を覚え、深刻な顧客離れにつながりかねません。
したがって、顧客に対して商品の値上げについて丁寧に説明し、理解を求めることが重要となります。馬鹿正直に商品の値上げを発表してしまうと、一時的に客数が減少し売上が低下することは避けられないかもしれません。しかし、「いつの間にか値上げ」に顧客が気づき、徐々に顧客離れが進み、売上低下が長期間にわたるよりも、商品の値上げに対する真摯な姿勢を顧客に示すことの方が、短期間で顧客数の減少を食い止める可能性は高くなります。
材料費の削減などによって原価価格を維持することは、商品の値上げと同様に、企業にとって原価率(値入率)の目標達成や、それに伴う粗利率予算の達成を容易にするというメリットをもたらします。しかしながら、安易な材料費の削減は商品の品質を低下させ、顧客がその変化に気づいた場合、顧客離れを引き起こす可能性があります。その結果、長期的に企業の売上を低下させるおそれがあります。このような事態を避けるための重要な対策は、常に顧客視点で物事を考えることです。
例えば、顧客にとって生地の価格が高いことが、必ずしも商品の価値を高めるわけではありません。なぜならば、顧客それぞれが、そのブランドやショップに求める付加価値は異なるからです。日本の気候に適したビジネススーツを例に挙げれば、顧客は必ずしもスーパー100以上の細い糸番手の生地を求めているとは限りません。むしろ、高温多湿な環境でもシワになりにくく、長く着用できる丈夫さを重視するかもしれません。そのような場合、必ずしも高価な細番手の生地を使用する必要はなく、頑丈で機能的な素材を選ぶことが賢明な判断となります。さらに、素材の変更だけでなく、ブランド・ショップのコンセプトに基づいた魅力的なデザインや、その他の付加価値を商品に加えることで、顧客は商品の品質が低下したとは感じにくくなる可能性があります。
アパレル小売企業にとって、原価価格の高騰は喫緊の課題と言えます。この状況下で、商品の価格設定を担うMDは、安易な値上げやコスト削減に傾倒するのではなく、顧客の視点に立ち、個々の商品に対して適切な価格設定となっているか、そして顧客がその商品にどれほどの付加価値を感じているかを深く検討することが求められます。このような顧客視点に基づいた対応こそが、個々のブランドやショップの価値を高めるだけでなく、最終的には企業の持続的な成長を左右する極めて重要な経営判断となるでしょう。以上で今回の記事は終了です。
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