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ECサイトの「かご落ち対策」として「Amazon Payなどの決済手段を追加する」という対策は過去からよく使われてきたかと思います。
狙いとしては、
「新規ユーザーが流入した際、住所や決済情報を新たに登録することなく、そのまま購入まで進んでもらう」
というものでしょうか。
入力の手間を減らすことで購入率を高め、あわよくばそこからリピーターとして定着してもらう。理屈としては理解できます。ただ、個人的には「Amazon Payを導入したことでカート放棄率が改善し、購入が大きく増えた」という事例を、それほど多く見たことがありません。逆に、ShopifyでAmazon Payが利用できなくなったことで「明確にかご落ちが増えた」というケースも、筆者が確認しているデータの範囲では今のところ見たことがありません。(Shopifyの場合はShop Payがあるため、単純に比較できない部分もありますが。)
そこで今回は、
「そもそもカートに商品を追加したユーザーのうち、どの程度のユーザーを識別でき、その人たちはなぜ購入していないのか?」
について調べてみました。
※本来は「チェックアウト離脱の対策」が趣旨の記事ですがわかりやすくかご落ちと記載しました。
今回は3ブランドほどを対象に確認しました。
いずれも「購入には会員登録が必須」のECサイトです。
BigQueryを使い、主に以下の内容を調査しました。
・add_to_cartが発生したユーザーのうち、user_idを取得できている割合
・そのユーザーのうち、購入せずに離脱したユーザーはどの程度いるのか
・離脱したユーザーには過去の購入履歴があるのか
集計期間は直近1年間です。
結果は、おおよそ以下のようなものでした。
・カート追加ユーザーの25〜30%程度でuser_idを検出
・かご落ちユーザーの15〜20%程度はuser_idを検出できるユーザー
・その「user_idが分かるかご落ちユーザー」の約9割には過去の購入履歴がある
個人的に意外だったのが、カート追加時点でuser_idを取得できるユーザーがそれなりにいたことです。ECサイトでログインするタイミングは購入直前が多いので、カート追加段階ではほとんど取得できないのでは?と思っていました。
また、「会員登録はしているが、まだ一度も購入したことがないユーザー」の割合はほぼいませんでした。つまり、すでに会員登録を済ませ、過去に購入経験があるユーザーでも、それなりの数がかご落ちしているということです。
もちろん購入経験者の購入率自体は高く、5割を超えていました。一方で、購入履歴がないユーザーについては、90%以上が購入に至らず離脱していました。
この数字だけを見ると、
「やはり新規ユーザーにとって、会員登録や住所・決済情報の入力が大きな障壁なのでは?」
とも考えられます。
今回調査したブランドの中で、特にかご落ち率が高いブランドがありました。ところが、そのブランドは購入率が低いだけではありません。
その前段階である、
商品詳細ページ → カート追加
の割合が、他ブランドよりもかなり高かったのです。
例えば、以下のような状態です。
<ブランドA>
商品詳細ページ → カート追加 → 購入
10,000人 → 1,000人 → 150人
<ブランドB>
商品詳細ページ → カート追加 → 購入
10,000人 → 300人 → 90人
カート追加から購入までの割合だけを見ると、
ブランドA:15%
ブランドB:30%
なので、ブランドBの方が優秀に見えます。
ところが、商品詳細ページまで含めて考えると、
ブランドA:10,000人 → 150人購入
ブランドB:10,000人 → 90人購入
となり、最終的な購入者数はブランドAの方が多くなります。つまりブランドAは、カート追加のハードルが低いからこそ、結果として「かご落ち」も多く発生している可能性があるということです。
「カート追加→購入」のCVRだけを見てしまうと、ブランドAには大きな問題があるように見えます。しかしECサイト全体のファネルで考えると、必ずしもそうとは限りません。
もちろん、
「ブランドAにAmazon Payなどを追加すれば、150人がさらに増えるのでは?」
という仮説を否定するものではありません。ここで言いたいのは、かご落ち率が高い=決済方法に問題がある、とすぐに判断するのは危険ではないかということです。
もちろん、そのようなユーザーもいるでしょう。特に新規ユーザーの場合、
「会員登録が面倒」
「住所を入力するのが面倒」
「クレジットカードを取り出して番号を入力するのが面倒」
といった理由で購入をやめてしまうケースは十分考えられます。その意味では、Amazon Payなどによって入力の手間を減らすことには意味があります。ただ、アパレルブランドのような嗜好性の高い商材の場合、かご落ちの理由はそれだけではないのではないでしょうか。
例えば、
・気になる商品だが、今すぐ着用できる季節ではない
・もう少し待てば値下げされるかもしれない
・他社モールやセレクトショップでも販売されているので、どこで買うのがお得か比較したい
・とりあえず商品をキープする感覚でカートに入れている
・サイズやカラーで迷っている
・実物を見てから購入したい
といった理由です。
つまり「カート追加」は、必ずしも「今すぐ購入したい」という意思表示ではありません。特にファッションECでは、カートが「購入直前の場所」ではなく、「気になる商品を一時的に置いておく場所」として使われているケースもあるのではないでしょうか。そう考えると、対策も変わってきます。
例えば、
・在庫が少なくなったタイミングでメールやLINEを配信する
・値下げされたタイミングで通知する
・送料無料やポイントアップなど、購入を後押しする特典を訴求する
・カート投入商品を広告やメールでリマインドする
・サイズやカラー選びをサポートするコンテンツを用意する
といった施策です。(お気に入りボタンを押してもらい、在庫僅少や値下げをトリガーにメールを送付するのが得策かもしれません。)
また価格の高い商品であれば、
「オンラインで気になった商品を店舗で確認してもらう」
という導線も有効でしょう。カートに追加したものの、「この金額なら実物を見てから決めたい」と考えるユーザーに対して、店舗在庫の表示や試着・取り置き予約などを案内する方法です。また、送料無料キャンペーンなどによって、「一度購入して試してみる」ハードルを下げる方法も考えられます。
極端な話、カート追加ボタンを押すユーザーが増えれば、かご落ちユーザーも増える可能性があります。しかし、その結果として購入者数や売上が増えているのであれば、必ずしも悪い状態とは言えません。そのため、
商品詳細ページ → カート追加 → チェックアウト → 購入
というファネル全体で確認した上で、
「どこで大きく離脱しているのか」
「離脱しているのは新規ユーザーなのか、既存顧客なのか」
「購入経験の有無によって違いがあるのか」
「どの商品が購入まで至らなかったのか」
まで確認した方が、打ち手を考えやすくなります。新規ユーザーがチェックアウト画面で大量に離脱しているのであれば、Amazon Payなどの決済手段追加や入力項目の削減は有力な施策になるでしょう。一方、既存顧客も大量に離脱しているのであれば、原因は決済情報の入力とは別にある可能性が高くなります。「かご落ちが多いからAmazon Payを入れよう」ではなく、
「誰が、どの段階で、なぜ購入をやめている可能性が高いのか?」
をデータから切り分ける。決済手段を増やすかどうかを考えるのは、その後でも遅くないのではないでしょうか。
EC講義は11月19日より新講座がスタート予定です。上記のような分析方法や施策立案を学びたい方は是非、受講をご検討ください。
ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)株式会社StylePicks
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