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最近、モール出身のアパレルが破綻するニュースが相次いでおり、EC界隈でも話題になっております。これについては以前、軽くツイートした事があるのですが、
先週、イーザッカの破産が報じられたが、最近モール出身ブランドが不調とよく耳にする。過去競合の支援をやっていた身からすると、モール出身ブランドが不調に陥る構造があると考えている。
— 深地雅也 (@fukaji38) April 22, 2025
モール専業でスタートしたブランド特有の事情があると考えております。筆者は過去、これらと類似のアパレルの支援を経験しておりますので、個人的な見解をブログでも書いておきたいと思います。
まず、アパレルブランドの業績悪化の兆候は顧客売上を見ていると大体わかります。(モールの場合は大概は詳細が見れませんが)筆者が自社ECでよく使う手法としては、
・直近1年間の累計購入頻度別の状況
です。つまり直近1年間で1回だけの購入者から、2回、3回…と人数・購入金額を見ていく感じです。合わせて「初回購入者」がどの程度いるか?も確認します。(直近1年間で1回しか購入してなくとも、過去に購入履歴があれば「初回購入者」ではありませんので)これを月ごとに更新していく感じですね。
これで何がわかるか?なのですが、初回購入者が減少していないか?F2・F3が促進されていないか?ロイヤルユーザーが離脱していないか?などが大体追えます。業績が悪化する際、これらのいずれかが下がってくるか、ひどい時は全部同時に来ます。状況が悪ければブランド指名検索も同時に悪化します。それぞれ対策は違うのですがモール専業の場合の売上対策は、
・モール内のお客を広告や値引き施策で誘引
・限定アイテムを増やす
・別のモールに出店
などに偏重します。他社モールの決算書を確認しますとGMVは伸び続けているケースもあるので対策としては正しいように感じますが、同時に取り扱いブランド数も伸び続けており、モール内のシェアを簡単に取れる訳ではありません、(大手アパレルも積極的にブランド開発やモールへの参入をしています。)また、別のモールへの出店という手もありますが、例えば楽天で成長したブランドのトップラインの減少を補填できるほど、他のモールで市場が必ずしも大きい訳ではないので対策としては不十分になりがちです。(他のモールに出店するのにも人員や広告出稿が必要になるので当然コストも発生します。)
顧客の離脱自体はどのブランドでも起こりうる事なので致し方ないのですが、それを補填できるくらい新規獲得ができていなければ当然ブランドは衰退していきます。その対策がモールだと限定的になりやすいという感じでしょうか。SNSを活用して外からお客を誘引するという手法もありますが、わざわざ手間とコストをかけて手数料を取られるモールに送客するなら、自社ECに送客して顧客育成した方が良いでしょうし。
自社ECを並行して運用しているなら対策は他にもありますが、WEB専業で運営してきた会社はリアル施策に弱く、主に使われる手法はWEB広告かインフルエンサー施策中心です。では、これらの対策で潤沢に新規獲得が実現できるか?なのですが、リアル施策との連動やMD強化がセットでないと機能しづらいです。
WEB広告の場合、Google広告は配信面が検索やバナー・ショッピング広告等がメインになりますが、アパレルの場合これらは「認知」が無いと機能しません。では認知はどこで取るか?ですが、雑誌掲載やセレクトショップへの卸、ポップアップを含めた出店などになります。つまり、販促・MD・販売などアパレル小売のノウハウが必要になります。ですが、モール出身のブランドはこれらのノウハウに乏しいケースが多く、対策が不十分になりがちです。meta広告なら新規ユーザーの獲得を促進できる可能性があり、上手く活用できれば販促は担保できますが、それでもMD・販売までカバーできません。インフルエンサー施策も同様ですね。
このmeta広告とインフルエンサー施策が非常に機能する例外がありまして、それが「低価格商材」と「値引き施策」ですね。低価格商材に関しては、自社で製造するノウハウが無い場合はODMを使うケースが多いでしょう。これが量産型インフルエンサーブランドが雨後の筍のように生まれる理由です。中価格帯くらいでも似たような手法を使うケースがあり、急速に成長している(ように見える)ブランドもありますが、表面上の見た目と画像が秀逸だろうが、商品自体が陳腐だとCS対応に追われたり、顧客の離脱を招いたりで長続きしません。
これらの事例は量産型の商品なので参入障壁は非常に低く、ブランドが長続きしません。プレイヤーが入れ替わりやすいのはこれが理由です。
そんな訳でODMで商品を仕入れ、モールの集客力や広告・インフルエンサーで膨らませたブランドが、新規獲得が頭打ちになり衰退するという流れです。リピーターも時間の経過と共に離脱していきますが、一度膨らませた規模を維持しようとすると仕入れ額が減らない反面、消化率は上がりません。そもそもECは消化率が上がりにくいチャネルですし、モールはそれが特に顕著に現れます。(少ないヒット品番を縦に売って売上を作る傾向)在庫過多になった場合は当然、値引き施策で在庫消化を図りますから、そこから赤字に転落しやすくなるという構造です。
売上対策も先述しました「WEB広告予算の増額」だったり、WEBサービスの導入(スタッフコーディネート・ライブコマース・チャットサービス・越境対応・謎のMDサービスなど)あたりなので、販管費が増えやすくPLはさらに悪化します。(採用も緩いと尚更やばい)
本来なら初期からブランドをしっかり設計しつつ、顧客管理をしながら運営していく必要があるのですが、それらをすっ飛ばしているのである程度資金があるうちにリブランディングするのがオススメです。(筆者もこれを選択して、MDと販促チームの外注先を紹介しました。)韓国の東大門から仕入れていたブランドが、いつの間にか独自アイテムを展開するケースなどもありますので、コンセプトをしっかり作り込み、アパレル小売の経験者を採用して足元固めるのが良いでしょう。しかし、ノウハウが無い会社は技術力が高い人を上手く採用できないので非常に難しい問題でもあります。
あとはアンティローザさんみたく、モール専業ブランドを乱発しまくって、ダメなものはやめていくという手法しかないんではないかと。めちゃくちゃ手間かかりますし、在庫は大変だろうし、WEB中心の割りに自社ECは売れないしetc、などのデメリットもあるのでオススメはしません。
上記からわかる通り、低価格商材やモールの集客力で膨らませたブランドを、広告だけで維持・成長させるのは無理筋なのです。よくわからないアパレル素人が作ったMDサービスを導入して現状を可視化・消化スピードを確認したところで対策打てないなら意味もありません。抜本的にMDを改善する必要がありますので、会社単位でマサ佐藤氏を呼ぶか、Fashion Re:ducationのMD講義に社員を送り込んでください。(唐突に始まる自社事業の宣伝)
ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)株式会社StylePicks
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