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今年に入り、革靴の老舗「リーガル」が苦戦しているというニュースがありました。
革靴が苦戦 「リーガル」が希望退職者を募集、製造子会社を清算へ
この背景には、コロナ禍以降のリモートワークの普及や通勤スタイルのカジュアル化といった外的要因が大きく影響していると考えられます。一方で、一部の革靴ブランドでは未だに生産が追いつかないほどの活況を呈している例もあります。こうした差を考えると、外的要因だけでなく、MD視点における「適品」の精度をどこまで突き詰められるかという点も見逃せません。
しかしながら、「適品」以外の4適(適時・適量・適価)までを含めて考えると、靴、とりわけ紳士靴のMDがいかに高難度であるかは、私自身も身をもって経験してきたところです。売上を追えば在庫が急増し、逆に在庫を絞りすぎれば売上機会だけでなく粗利をも大幅に損失するリスクがあります。特に靴は衣料品と比較して、在庫回転率が低くなりやすいという特有の難しさもあります。そこで今回は、靴のMDを深く紐解き、品揃え計画における「サイズ展開」と「販売期間」の関係性についてお伝えしたいと思います。
これまでのMD実務およびMD支援の経験から、靴のMDにおける難しさは主に以下の3点に集約されると考えています。
〇サイズ展開の複雑さと在庫リスク
靴はフィット感が極めて重要であるため、サイズピッチは5mm単位と細かく、幅広い展開が不可欠です。欠品による売り逃しを防ぐためには、必然的に1アイテムあたりのSKU数が増え、結果として在庫が膨らみやすい構造にあります。
〇販売期間の設定の難しさ
トレンドや季節性が明確なレディース商品に比べ、メンズ(特にビジネスシューズ)は定番品と言われるような商品が多く、明確な販売期限を設けにくい傾向にあります。そのため、(セール展開を前提としない)通年展開の商品が滞留しやすく、気づかないうちに低回転の在庫が積み上がってしまいがちです。
〇リードタイム(LT)の長さと入荷の偏り
衣料品と比較してLTが長い場合が多く、一度に大量の発注を余儀なくされます。その結果、特定の月や週に入荷が集中し、平均在庫金額を押し上げる要因となります。
これら3つの要因が連鎖することで、靴のMDは他カテゴリーに比べても在庫回転率が低迷しやすいという特性を持っています。以上の背景を踏まえ、ここからは具体的な例題を通して、靴のMDにおける「サイズ展開」と「販売期間」の関係性について掘り下げていきます。
具体的なMD設計のシミュレーションとして、以下の条件を持つ「ショップA」を例に考えてみましょう。
・靴の売上予算は1,200万円。粗利率予算は52%。値入率目標は55%(原価率45%)。
・靴の元売価平均は35,000円。
・靴1アイテム辺りの平均カラー数は2、平均サイズ展開数は7。
・靴の標準展開カラー数は18、標準展開アイテム数は9(靴の展開はSKU展開ではなく、カラー展開の場合が多い。)
・靴のLTは半年。販売期間は半年。
以上の条件設定をもとに、まずはこのショップが年間で「何足販売する必要があるのか」を、売上予算から逆算してみましょう。算出方法は以下の通りです。
1,200万円(売上予算) × {1 – 52%(粗利率)} = 576万円(売上原価予算)
576万円 ÷ {1 – 55%(値入率)} ≒ 1280万円(元売価ベースの必要売上)
1280万円 ÷ 35,000円(平均元売価) ≒ 366足(年間の必要販売数)
年間の必要販売足数(366足)が見えたところで、次に、この予算を達成するために「年間で何アイテム(または何カラー)を新規投入すべきか」を算出していきましょう。
365日 ÷ 182.5日(販売期間) = 2回(年間アイテム回転数)
9アイテム(標準展開数) × 2回(年間回転数) = 18アイテム(年間投入アイテム数)
年間投入カラー数:36カラー(18アイテム × 2カラー)
以上の計算から、このショップAでは「年間で18アイテム(36カラー)を新規投入し、それらを年間で計366足販売する」という具体的な骨子が見えてきました。それでは、この計画をさらに深掘りし、「1アイテム・1カラー・1SKUあたり、具体的に何足販売すればよいのか」という数量を確認してみましょう。
366足(年間販売数) ÷ 18アイテム ≒ 20足(1アイテムあたりの平均販売数量)
20足÷2カラー≒10(1カラーあたりの平均販売数量)
10足÷7サイズ≒1.5(1SKUあたりの平均販売数量)
ここで浮き彫りになるのは、「1SKUあたりの販売数量が2足に満たない」という厳しい事実です。当然ながら、商品によって売れ行きには濃淡が出ます。売れ筋に厚みを持たせようとすれば、死に筋のサイズ展開を間引くなどのコントロールが不可欠です。もし、すべてのアイテムで漫然とフルサイズ展開を強行すれば、それだけで在庫は瞬く間に膨れ上がってしまいます。この課題を解決する手段の一つに、「販売期間の延長」があります。
例えば、販売期間の設定を半年から1年に延ばせば、1アイテムあたりの販売数量(仕入枠)を単純計算で2倍に増やすことが可能です。ただし、これには「商品の入れ替わりが鈍くなり、店頭の鮮度が保ちにくい」というデメリットが伴います。一方で、ショップコンセプトが「定番品の充実」を重視するものであれば、あえて販売期間を長く設定し、1SKUあたりの回転を安定させる手法は有効です。大切なのは、このように事前に具体的な数字を算出・可視化することです。その上で、自分たちのブランドやショップにとって「鮮度」と「効率」のどちらがベターな選択なのかを判断し、精度の高い品揃え計画を立てるべきだと言えるでしょう。


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