メールマガジンを登録していただくと、セミナー・イベント開催のお知らせやブログの更新通知をお届けします
アパレル上場企業の決算書を見るのが趣味の筆者ですが、マサ佐藤氏のような在庫分析が詳細にできる訳でもなく、あくまでECの数字に注目して見るようにしております。
ここで重要なってくるのが、
・ECの数字に影響を与える施策は何なのか?
という事でして、施策と連動して決算書の数字を見る事で「実行された施策が効果的だったかどうか?」や、「効果的な施策ができていなかったのでは?」などの仮説を立てる事が可能です。筆者は仕事柄、データで検証しながら「何がEC売上に大きく影響したか?」をある程度は見てきておりますので、それを元にECの数字を確認しています。なので、大手アパレルが自社ECモールで普段、どのような打ち手をしているか?も合わせて見るようにしています。
そこで今回は、決算書からEC売上を見る際の注意点をいくつか記載しておきたいと思います。
まず、売上インパクトが大きいのはブランド数やそれに伴うSKUが増えた時ですね。そんな訳で、新ブランドの開発やそのブランドが大きく成長しているとEC売上は伸びやすいです。これは実際、クライアントのECサイト単体で見ている時でも起こる現象なので、多くのEC担当者の方々はご存知でしょう。要は、ブランドが増える→顧客数が増えるという事ですし、型数が多いブランドほどトップラインは伸びやすいからです。(型数が増えすぎると消化率は下がりやすいですが)
ここで難しいのが、同じブランドでSKUを増やしたら売上が伸びるか?という事ですが、ブランドが成長しているならまだしも、成熟しているブランドが無闇にSKUを増やしても在庫が増えるだけなのでオススメしません。あくまでMDが優先であって、SKUが増えるのは結果に過ぎません。
パルグループはよく、破綻したブランドの事業譲渡からECモールのブランド・SKUが増えていますので、このような事例はわかりやすいですね。また、ZOZOTOWNでも毎年ブランド数・ショップ数が増えており、それに伴ってトップラインが伸びているという状況です。(もちろん売上アップの要因は複合的なので、あくまで相関を見る時に用いています。)
続いてこちら。店舗数の推移もECに影響を与えるというのは皆様おわかりでしょう。店舗数が増える=認知向上・顧客数増加の要因と見る事ができるので、EC売上に影響を与えやすいです。一方で、店舗数が増えているのにEC売上が伸びていないなら、これはブランドが成長鈍化している・現時点の力量の上限を迎えている、という見方ができます。
ECが伸びているのに店舗数が増えていない、が一番望ましいケースなのですが、これはユニクロやグローバルワークなどに見られる現象ですね。店舗はスクラップ&ビルドや増床リニューアルで既存店売上を担保。OMOや販促強化でEC売上を伸ばしている、というような状況でしょうか。グローバルワークでは「スマイルシードストア」の店舗も増えているので、先述した「ブランド数」という要因に組み込んでも良いかもしれません。
ユニクロ・GUの店舗数、それぞれ間違えてますよ。 https://t.co/J80C8afMAR pic.twitter.com/qUS5TTJRBV
— 深地雅也 (@fukaji38) February 19, 2025
(店舗数の推移を合わせて見ていない事例)
月次報告を見ておりますと、明らかに市況が良くないのにECでしっかり昨対を取れている企業があったりしますが、そのような場合にECを見にいってみると普段より値引き施策を強化している事があります。そこで4半期ごとの決算を確認しますと、案の定、粗利率が下がっていることがあるのですが、売上不振から値引きで在庫消化を優先すると、このようなことが発生しやすいです。月次報告で粗利や営業利益を掲載することはありませんから、トップラインだけで「好調」と判断してしまうのは早計です。これはECも店頭も条件は同じですね。
話は逸れますが月次報告で昨対超えを大々的に報じていても、店舗数が増えていたり、EC側で出店しているモールが増えている事があります。また、冒頭で記載したようにブランド数や店舗数が増えているとECも伸びやすいので、そのあたりの情報を合わせて見る必要があります。
大手アパレルは店舗売上の方が比率は大きいので、粗利の変動でそこまでEC側の動きを判断できるものでも無いのですが、先述しましたように市況が顕著なら数字に現れることもある、という印象です。
続いて販管費の内訳で重要な箇所を見ていきましょう。ECでは特に注目したいのが下記2点です。
まずは広告宣伝費や販促費ですね。WEB広告やクーポン・ポイントなどが該当しますので、これらの施策を打ちまくると販管費に影響が出やすいです。クーポンに関しては値引きとしてカウントしていないケースがあるので、その場合は販管費で計上されます。(粗利から引く場合もあります。)例えば、やけに粗利率が良いのに営業利益が低い、なんて場合はこちらが圧迫している可能性がある訳ですね。普段の施策を見て「クーポンが多いな」と感じるのであれば、それが影響してECの利益率を下げているのでは?なんて仮説も出てきます。
筆者が過去、遭遇したEC専業のブランドでは、無駄にWEB広告を打ちまくっていた結果、業績が悪化。WEB広告を半分にしたら、その分営業利益が伸びたなんてケースもあったりします。店舗だと主に「人件費」や「地代家賃」などが嵩みやすいですが、ECでは全く違う勘定科目に注目する必要があるのです。(店舗出店したが全然売れていない、なんて場合でも販管費率は上がりやすいので、人件費・地代家賃にも注目しておくに越したことはありません。)
企業によって計上する箇所は違うかもしれませんが、EC関連のサービス利用料は「手数料」に計上される事が多いでしょう。(コーディネートサービスやモバイルアプリのサービスなどなど。)また、ECモールに出店する際に発生する手数料もこちらに計上されます。
(このあたりは以前も軽く書いていますね。)
サービスの手数料は余程ひどい金額を取るサービスでない限りは決算書で目立つ事もないのですが(ひどいやつがたまにあります…。)、モールの手数料は売上規模が大きくなるほど金額が大きくなるので結構な額になってきます。モールの売上は公開されているケースの方が多いのですが、もし公開されていない場合は支払手数料を確認してみましょう。(料率は25〜35%くらいが多い印象です。)
このあたりを見ておきますと、EC売上の推移から仮説は立てやすいかと思います。これを元にいつも決算解説記事などを書いておりますので、過去からの数字の経緯や普段の施策はメモしておき、決算書が出た段階で照らし合わせながら検証するのが良いでしょう。何より、普段からECサイトの施策立案と検証を繰り返しておき、何が効果的なのか?を知っておく必要があるので、大変かもしれませんがGA4を見る癖は身に付けておくのがオススメです。(そもそも決算書を確認する必要はあるのだろうか…。)
株式会社StylePicks CEO。ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)
小売ビジネスに関するMD(品揃え政策)アドバイス・サポートを
ご希望の方はお気軽にお問い合わせください。