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弊社がMDアドバイザーの仕事を始めて今年で12年目になります。10年以上この仕事に携わっていると、マーチャンダイザー(以下MD)の方々との知己も自然と増えてきます。そうした中で、最近、複数のMDの方々から「売上予算が高すぎて困っている」という共通の悩みを打ち明けられました。
基本、事業部の売上予算の設定は粗利予算とともに、事業部の損益予算で決まります。しかしながら、現状は、前年実績をベースに売上予算を設定している企業・事業部が多いのが実情ではないでしょうか。

さて、話を戻しましょう。先日、複数のMDの方々から受けた相談の要点は、シンプルに言えばこれでした。
「過去2年の売上実績が既存店ベースで前年比110%を超えていたにもかかわらず、今期の売上予算は前年比115%と設定されており、とても達成できる数字ではない」(*数字はあくまでイメージです)
この状況をさらに分かりやすくするために、以下の図をご覧ください。

上記の図でわかるように、2025年度の売上予算は前年比で115%ですが、2023年度と比較すると127%、2022年度比では実に139%にもなります。これでは、売上目標達成のハードルが非常に高くなっているのは明らかです。加えて、2025年度は物価高騰の影響で消費の落ち込みが懸念されています。このような状況下でこの予算を達成するのは、さらに困難だと言えるでしょう。前年実績に応じて売上予算を決めるこの手法が、経営層からMD、そして販売の現場まで、全員に納得感があるのであれば、特に問題はありません。しかし、もしMDや販売の現場で「達成不可能」な予算だと感じられてしまうと、多くのデメリットが生じてしまいます。
この場合のMDの視点でみたデメリットは、在庫過多に陥る可能性が高まることです。なぜなら、MDは売上(粗利)予算に基づいて仕入予算を立てるからです。特にシーズンが始まる際には、事前に決めた仕入予算通りに商品を発注せざるを得ません。シーズンに入って売上予算を下回ってしまうと、当然、在庫は増えていきます。リードタイム(LT)が短ければ、ある程度の修正は効きますが、LTが長いとMDがとれる対策は限られてしまい、早い段階から売価変更による在庫消化を余儀なくされます。一方で、MDが気を利かせ、シーズン期初から仕入予算以下の発注に抑えてしまうと、当然ながら売上・粗利予算の達成は不可能になります。もし私がMDの上司の立場であれば、事前に仕入金額の不足を指摘するでしょう。
今回お話しした売上予算の決め方は、組織の規模によって多少の違いはあるものの、おそらくトップダウンで決定されている可能性が高いでしょう。このやり方が一概に間違っているわけではありませんが、できることなら販売現場との対話、つまりボトムアップの視点を取り入れて予算を決めるのが理想的と言えます。さらに、前年実績の数字だけを見て売上予算を決めるのではなく、最低でも過去3年間の数字を検証した上で、売上予算を含む損益予算を決定することが重要です。加えて、損益計算などの会計に関する社員教育も、今後ますます重要になってくるでしょう。
ということで、今回の記事はこれにて終了です。
【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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