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先週のWWDの記事にもなっておりましたが、ファッション業界のセール時期はどのタイミングがいいのか?の議論が活発になっているようです。
「ドリス ヴァン ノッテン」はじめデザイナーやCEOが店頭での販売時期とセール期間の後ろ倒しを提案 UA栗野氏ら賛同
ファッションスナップの記事でも有名デザイナーの公開書簡が報道され、これに賛同する方々も増えているようですね。筆者もこの記事を読み込んでみたのですが、そこでちょっと気になったのが下記の部分。
2020年秋冬シーズンからはウィメンズ・メンズウェアの販売時期を、秋冬シーズンは8月〜1月に、春夏シーズンは2月〜7月に変更することを提案している。店舗に配送される商品の季節性と実際の天候を一致させることで顧客の購買意欲を保つ。また、より多くの商品を定価で販売するために、セール期間をシーズン終盤の1月と7月に業界で統一して設けることも提唱している。
A/W(秋冬) 8月〜1月 ※1月はセール期間
S/S (春夏) 2月〜7月 ※7月はセール期間
という内容。こちらを見て「何が変わったんだろう?」と思う人もいらっしゃるかと。
厳密に言うと、年間を2分割したMDサイクルを採用しているブランドはほとんど無くなってはいます。年間を4〜8分割にしたり、果ては52週MDなんて短いサイクルのケースもあったり。基本は2分割に始まりそこから分割されていった、という経緯ではあるのですがそこからどんどんと発展したのが今の形になります。ラグジュアリーでも秋冬に入る直前には「プレフォール」、春夏に入る前には「クルーズ」というラインで新作を発表したりしますから、2分割は実質的にはほとんど無いのが現状です。セールの形も、タイムセールをはじめとした「都度セール」が一般的になっており、年間二回開催される大きなセールは認知こそされていますが、過去と比較すると盛り上がりに欠けるようになってきています。では、このサイクルを過去のようにMDが2分割だった時代に戻し、セール・プロパー時期を徹底的に分ける事に意味はあるのでしょうか?
セールの後ろ倒し論争は実は過去から発生していました。筆者が新卒の頃、「百貨店のセール前倒しが止まらない」と嘆く人たちが多く、業界のリーダーである伊勢丹百貨店がセール日程を前倒していくと、それにつられて阪急が前倒し。結果、大丸もそれに続き…、のような状況があり、よく業界の方々が「伊勢丹が後ろ倒しを表明してくれればみんな賛同するのでは?」とぼやいておられました。そして数年後、それは半分実現されます。伊勢丹百貨店がセールを後ろ倒しにしそれでも行列が出来る、といった報道を見た事がある人もいらっしゃる事でしょう。しかし、こういった動きがあろうが結果としてどの百貨店も後ろ倒しに賛同しませんでした。恐らく「先にセールをやれば出し抜ける」という考えがあったのではないでしょうか。
百貨店を例に出すと、過去からセール…というより値引き施策はプロパー時期にも発生していました。例えば各館の「ポイントアップ施策」であったり「優待」などはそれに当たります。また、ブランドのキャリー品を集めて「催事」を開催し、商品を値引き販売する事など毎年どのタイミングでもありました。売れないブランドであれば売上対策として従業員食堂でワゴンセールなんかもやります。MDが2分割の時代からこういった事は日常茶飯事なので、現代とやってる事に変わりは無かったのです。
ファッションECモールが誕生し、今やモールは毎日のようにクーポンやセールを乱発しています。クーポンはともかくセールはキャリー品を使っているでしょうから、百貨店の催事と同様ですね。クーポンを使用する場合、ブランドの決算書では「販促費」の分類になる事からクーポン利用を「プロパー販売」と位置付けている企業もあるようですが、ZOZOTOWNでは8000円や10000円のクーポンを配布する事もあり、これがプロパーだと言われると本当に馬鹿馬鹿しいですね。
リアルの現場でもSCはプロパー時期だろうが連休に入ると簡単に10〜20%程度は値引きますし、更にタイムセールも仕掛けます。タイムセールを仕掛けると、その場にいるお客が当該店へなだれ込みますから、ここでも「やったもん勝ち」な訳です。
このような事態が横行している事を知っていれば「セールを後ろ倒ししましょう!」といくら書簡を公表しても実際に後ろ倒しが実現しない事はおわかりでしょう。結局は誰かがセールを後ろ倒しすればそれをチャンスだと思って出し抜こうとする事業者が現れます。全世界のブランドで協定でも結ぶつもりでしょうか。それこそ無理がありますね。
仮に全ブランドが「疲弊するから後ろ倒しにしたい」と考えたところで、プラットフォーマーがそれを許してくれるでしょうか。上記の事例でセールの原因になっているのは「百貨店」「SC」「ECモール」とプラットフォーマー側の事情が多いと思われます。一部のラグジュアリーは「優待対象外」「セール除外」のような措置を取っていますが例外中の例外ですね。ブランドとプラットフォーマーとのパワーバランスの問題でしょう。つまり、ブランド力が無ければ「セールを後ろ倒しにしたい」と言ったところでプラットフォーマーの事情に委ねられる事になるのです。ZOZOの事例なんかはわかりやすいですね。売上目標があり、そこに到達できなければ撤退。撤退したくなければクーポンを撒く。といったフローです。ブランド側も共犯とは言え、これをこなさなければ出店できないのであれば抗う事は難しいでしょう。
また卸をしているブランドならば、既にセレクトショップに販売してしまった商品をどう扱おうがコントロールできません。こちらも一部のラグジュアリーであるならば、セールしていい期間とオフ率を縛ったりする事もあるのですが、ほとんどのブランドはそんな事は不可能です。在庫リスクを取って買い取った商品が売れなかった時の措置まで口出されたらセレクト側もたまったものではありませんね。
このように過去から今に至るまで、ブランドの値引きは至る所で見受けられます。ECの世界では「フラッシュセールサイト」「C to Cアプリ」なども値引き販売に含まれるでしょう。そしてブランドが不良在庫をフラッシュセールサイトに売り払ってしまえば、どんなにシーズンど真ん中でもキャリー品を値引きで販売される事になります。C to Cなんかは一般消費者なので止めようがありませんね。
もう一つ考えなければならないのは、そもそも後ろ倒しする必要があるのか?という事です。半期に1度のセールより都度セールをした方が粗利が残りやすく在庫消化しやすい、というブランドもあるでしょう。お客も、着用期間が僅かなシーズン終盤に大きく値引きされるより、まだ着用期間が長くとれるシーズン中盤で少し値引きされる方が買いやすい場合もあるでしょう。やり過ぎなければセールは新規客がエントリーしやすいものですし、むしろ在庫消化が進む方がサステナビリティな世界とも言えます。このブログの主でもある佐藤マサ氏もよく言ってますが、セール自体が悪なのではなく、問題はその運用方法にあるのです。
どうしてもセールをコントロールしたいのであれば、プラットフォーマーに依存せず卸もせず、路面店と自社ECの運営のみにしておけば、理論上は可能でしょう。ただその場合、ブランドの拡販が出来ず濃いファンだけで小規模のブランドになるかもしれません。結局のところ、セールのコントロールは自社のブランド運営の方針次第になるのです。ブランドが連名でセールを後ろ倒しにしようと運動を起こすより、自社の方針を固めブランド力強化を目指す方が余程、セールに振り回されずに済むのではないでしょうか。
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— 深地雅也 (@fukaji38) June 3, 2020
株式会社StylePicks CEO。ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)
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