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このMDアドバイザーという仕事を始めて7年になりますが、講義などで受講者様によく聞かれる質問で多いのは?
”(アパレル・ファッション小売業の)適正在庫ってどのくらいですか?”
という質問をよく受けます。私の返答は。。。
”(´・ω・`)知らんがな。。。”
と返答するようにしています(笑)ですが続けて。。。
”自分たちの組織・ブランド・ショップの特徴を理解していますか?”
と返します。このことを具体的に言えば、ブランド・ショップコンセプト。顧客ターゲット。リードタイム(以下LT)。販売期間等です。更に言えば、上記の特徴を加味して、ブランド・ショップの在庫のストーリー((月・週等)在庫予算)を設計し理解していますか?と質問をすると、殆どの人がその質問に答えられないというのが現状です。
先に、マーチャンダイザーとしての在庫の持ち方?の理想形を言ってしまえば、
”その日に売れる分だけの仕入をし在庫を持つこと”
このことが理想形です。この理想に近い業種と言えば、コンビニエンスストアやスーパーマーケット等が挙げられます。震災などが起こり物流がストップしてしまうと、店の棚から商品があっという間に消え去るように、コンビニエンスストアやスーパーマーケットの在庫は売上の数日分しか店にない!ということが理解できます。(生鮮食品は当然その日売る分しか用意しない。だが、これらの業界も食料の廃棄ロスの問題を抱えているが。)
このようなことが出来るのは、売れた商品のデリバリーがほぼ毎日あることと、アパレル・ファッション小売業のように、商品のLTが数か月かかる等という商品が少ないからです。ですから、アパレル・ファッション小売業のように、基本的に本部に在庫を抱える必要がありません。(実際、某スーパーマーケットの支援に入った時に、食品部から衣料品部に異動してきた人から、今思えば食品部はラクで良かった_| ̄|○という話を直接された。)
このことを売上・粗利・仕入・在庫管理表で表現すると、月単位のみならず週単位までも売上原価と仕入原価がほぼイコールになります。また、店頭を含めた組織の在庫が上述したように、アパレル・ファッション小売業と比べ圧倒的に少ないですから、高い在庫回転の数字が出ます。
(売上原価と仕入原価がほぼイコールになる在庫原価の相関を表した図。あくまで参考です)
ですが、アパレル・ファッション小売業はコンビニエンスストアのようにはいきません。理由としては、様々なことが考えられますが。
・LTが長い(商品を発注してから店頭に入荷するまでの期間)
・販売期間の長短
・コンセプトに基づいた色・サイズ展開(SKU設計)
更に商品そのものの良し悪し等以外にもありますが、このようなことが在庫回転に影響を及ぼします。ですから、同じアパレルだと言って、一括りでこのことを語ることはできないですし、組織それぞれに、更に言えばそのブランド・ショップそれぞれに、在庫のストーリーは全く変わってくる!ということです。
ここからは、アパレル・ファッション小売業でよく見られる幾つかの例を挙げ、それぞれのケースで在庫が売上等に対してどのような推移を辿りやすいのか?ということを考察していきます。
今回上げる例は?
A インポートセレクト型
B ベーシックカジュアル型(メンズによくみられる)
C レディース販売期間短い型
以上3つです。
今回はこの3つのケースで図(グラフ)を作成していきますが、ページの都合上により2月~7月の期間で図を作成します。また、数字や数字の推移等は、私の過去の経験則による数字でありますので、その辺はご了承のほど願います。
(図はあくまで参考です。2月~7月までの粗利率・売上原価・在庫原価で作成しています)
所謂本当のセレクトショップです。今回のケースで言えば、商品の納品がSSの立ち上がり時期の2月に集中します(1月にもだいぶ商品の入荷がある)。更に言えば、夏物商品も2月に入荷しているケースがあります。これは、年2回の展示会ブランドを仕入する際によくみられる傾向です。ですから、図をみても理解できるように、自ずと2月か3月末が在庫がピークになってしまいます。
また、このケースは、期初に一気に納品があるので、仕入した商品のお金の支払いが、商品をある程度売るよりもかなり先に来てしまいますから、平均在庫が高くなり、在庫回転が悪いということは、読者の皆様にも理解していただける筈です。ですから、在庫回転をよくしようとすれば商品の”目利き”を良くし、売上を予定通りに稼ぐしかありません。また、お客様を飽きさせないように、販売の現場と商品を出す順番をよく打ち合わせしておく必要があるでしょう。更に言えば、納品された商品をすぐに店頭に出せば、店から商品が溢れかえる可能性が大ですから、店のバックヤードは広めに設計しておくべきです。
(図はあくまで参考です。2月~7月までの粗利率・売上原価・在庫原価で作成しています)
このケースは、メンズによく見られるケースです。また、UNIQLOやワークマン(ワークマンは、フランチャイズ商売なので在庫を気にする必要はあまりないが。。。)、更にビジネススーツ系を展開している組織もこれに近い感じでしょう。今回作成した図は、平均販売期間3か月に基本設定しましたが、このような組織は年間展開(継続商品)する商品も多くあるケースが多いので、最終的には、販売期間は4か月~5か月程度となっています。
このケースの特徴としては、ベーシック商品が多いわけですから、色・サイズ展開が豊富で(1アイテムあたりの)SKU展開が多くなります。更にLTを短縮するのは、現状殆どの組織が不可能です。ということは、自ずと平均在庫が大きくなる可能性が高まる!というのが特徴です。そのことが在庫回転の足を引っ張ってしまっています。ですので、この在庫回転の悪さを改善するためには、MDの予算設計をしっかりと行う。特に追加枠を最初から設計しておくことが重要です。
今回の販売期間は継続商品を含めて4か月程度になりますから、LTが2か月だった場合、極論を言えば初回発注で2か月の売上分を発注すれば良いのですから、仮にその商品が予定通りに売れなかった場合は追加枠の分を発注しなければ在庫過多は多少なりとも防げますし、商品を一気に発注しないことで、平均在庫を抑えることが出来ます。また、MD予算設計をしっかりと行うことで、どのタイミングで在庫をMaxにする必要があるのか?継続商品の平均在庫は、店頭での商品展開やLT等を鑑みて、どのくらいの金額水準がベターなのか?ということを、事前に把握することが重要となります。
更にそもそも論になりますが、例え同じ商品を展開するにしても、継続商品という管理をするのではなく、販売期間を区切ってMD予算設計を行うことが好ましいと言えます。その際に、色展開の変更や商品のアップデートなどあれば、良い効果を与えることでしょう。
(図はあくまで参考です。2月~7月までの粗利率・売上原価・在庫原価で作成しています)
最後に都心のファッションビル等に多くみられるこのケースです。コンサルさん大好きZARAはこの部類になるでしょう。このケースの場合は、販売期間を短く設定しているわけですから、自ずと商品の投入アイテム数が増え、短い期間で新商品が入荷していきます。また、レディースはメンズほどサイズ展開の必要がないケースも多いので、上記した2つのケースよりも在庫回転が良くなりやすいのが特徴と言えます。
ですが、このケースのデメリットは、LTが長いと(今回作成した図は販売期間を40日程度で設計)、基本的に商品の追加発注を行うことが出来ません。ですので、短いスパンで入荷してくる商品が高い消化率で売れる!ということが求められます。商品の消化が悪いと、当然のことながら売上もダウンしますが、店頭から商品がすぐに溢れかえります。しかも、前の商品の売れない色・サイズ等が歯抜け状態で残り、店頭のVMDを組むのが大変になります。ですので、常日頃からMDと販売現場のコミュニケーションを密にとることが重要です。商品のディレクションMAPは勿論のこと、月(場合によっては週)の詳細なMD戦略を常に販売の現場と共有する必要があるということです。もし、そのことがおざなりになれば、販売の現場はその作業量の多さから疲弊することになるでしょう。
また、このケースですと販売期間を過ぎた商品を処理をどのようにするのか?ということが大事になります。UNIQLOのように、売れない!ということがわかれば早目に値段を下げ、商品を無くしていく!このことが出来ると、思っている以上の売上・粗利が確保しやすい!という側面があります。ですが、ファッションビル等ディベロッパーの制約で、期中のセールが出来ない場合は、ECや路面店との連携等を設計し、なるべく早い段階で商品を無くしていく必要があるでしょう。
以上3つのケースについて述べてきましたが、アパレル・ファッション小売業として一括りに在庫のことや在庫問題を語るのは、具の骨頂でしかなく、組織それぞれに知るべきこと。すべきことは全く異なるということです。
このことで先ず大事なのは、自分たちの特徴を踏まえて、売上だけでなく”粗利””仕入””在庫”という風に連動してMDの予算設計を行うことです。そのことで、どのタイミングで在庫がMaxになるのか?寧ろ、どのタイミングで在庫をMaxにすべきなのか?ということが見えてきます。更に今後意識すべき点というのが、気温への対応です。商品を投入するタイミングというのももちろん重要ですが、特にSS商戦では先に商品を確保しておく!ということも重要になるでしょう。本来4月に投入する筈であった商品を、現状の気温に即して3月に店頭展開できるようにしておく!等ということも加味しておかなければなりません。そのようなことを加味して、在庫のストーリー設計を考えると、当然在庫回転が良くない在庫のストーリー設計となります。しかしながら、そのようなことも踏まえた上で、自組織のMD戦略を考えることも必要ではないでしょうか?そして、当たり前のことですが、コンセプトに基づいた中でお客様の欲求・要求に適う商品を提供することが1番大事です。
自分たちの組織の長所・コンセプト・仕入の特徴はどうなのか?このことを踏まえた上で、在庫のストーリー設計する重要性を訴えて、今回の記事は終了致します。今回の記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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