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年明けからメディアの報道で目立つのが「セール販売が弱い」「初売りからプロパー強化」のような記事。
都心の百貨店にて初売りからそのような傾向にある、という事で報道されているようで、プロパーの気運が高まっているような雰囲気を感じさせます。が、この現象はアパレル全体で起こっているのでしょうか。ここで改めて、普段からファッション・アパレル業界で実施されているセール販売・値引き施策について事例をいくつか記載しておきたいと思います。
まずは百貨店関連から。百貨店には定期的に「優待」と呼ばれる値引きの日がありまして、各社ブランドはそのタイミングで顧客にご連絡。取り置き等で一気に売上を取る為に活用しております。
普段のお買い物金額に応じて割引率が変動する事もあり、プロパー時期だろうと普通に開催されております。(ポイント還元のケースもあり)また、催事と呼ばれるイベントでは、ブランドの値引き販売を実施。(キャリー品中心です。)ホテルで開催するなど、本館とはやや離れた場所で行われる事もあれば、本館の上層階で開催される事もあり、こちらも年中やってます。
https://www.instagram.com/p/BiERSkegbMl/
(この催しは2023年も開催されていたようです)
このような取り組みは、筆者が新卒だった20年近く前でも普通に行われており、今も変わっていないようです。一方で、普段から店頭では全くセールをしないウォッチ・ジュエリーを含む一部のラグジュアリーブランドもあります。そのようなブランドは、カードの優待すら使えないというケースもあったりと徹底されており、初売りでこれらのブランドの売上が伸びた場合は当然ながら館としてのプロパー比率は上がる訳ですね。なので、部門別での売上や、そもそも売り場をプロパー中心に展開しているなら当然セールの比率は落ちるのです。とは言え、エルメスもグッチもディオールもみんな独自にファミリーセールやってるんですけどね。販売期間を長く取れる革小物は消化率が高いのでファミリーセールではほぼ見かけませんが、衣料品はめっちゃ出ています。廃棄する前にファミリーセールで限定的に消化しているという感じでしょう。
また、ターゲットは大きく違いますがショッピングモールでもプロパー期間だろうがセールは普通に開催されます。特に三連休など、休日が続く際は館が主導せずともブランド側が10〜20%OFFすることはざらにあり、そこからタイムセールをかぶせる、なんて事もあるので、プロパー期間などあってないようなものですね。
初売りからセール通知がめっちゃ来るECモールですが、もはや初売りどころか年末からめっちゃ来ています。もっと言いますとプロパー時期とか関係なくセール通知が来ます。セール通知でなくとくもクーポンはほぼ毎日発行されてます。(デザイナーズブランド中心のZOZO VILAもクーポンまみれ)あ、そういやクーポンは販管費に計上されるからプロパー販売なんですね!(棒)
「クーポン販売はプロパー」って話するやつは滅びろ。
— 深地雅也 (@fukaji38) July 28, 2020
セールで展開されるアイテムはキャリー品が中心なので、恐らく評価減はしているでしょう。だからこそオフ率が高いものを用意できるのですが、二重価格も結構あるみたいなのでお気をつけください。
もはや若者の狩場と化しているのでは?と思うほど、セール時の注目度が高い一部のラグジュアリーEC。(特にSSENSE)
リスティング広告のスニペットで結構なオフ率をアピールしていますね。流石にプロパー時期には値引きはほぼ無いとは思いますが、セール時期には大盤振る舞い。服飾専門学校の若者に「普段どのECサイトを見ているか?」と質問すると回答の二大巨頭はFarfetchとSSENSE。あとはこれらをチェックしながらメルカリで探す、みたいな購買行動。または似たような商品をZOZOで探すパターンもありますね。
一時流行った招待制のフラッシュセールサイト。代表的なのがこちらの「GLADD」ですが、ギルトが傘下に入った今、他に代表的なプレイヤーいるんか…?
以前、筆者が勤務していた会社もフラッシュセールサイトに在庫を販売していた事があるのですが、内容は主に不良在庫となったキャリー品中心ですね。当時は買取りで商売していましたが、今や委託販売のケースもありそうです。ギルトが当時躍進した一つの要因として、ハイファッションブランドの取扱いがあったのですが、ラグジュアリーECが極端な値下げをしている昨今、これだけだとちょっと厳しいですね。フラッシュセールサイトでも、今では多種多様なブランドが取り扱われていますし、プレイヤーも相当減ったので継続できているという感じでしょうか。
街中で見る事が珍しくなくなってきたオフプライスストア。代表格はゲオが運営するこちらのラックラックで、今や全国20店舗の展開を超えているようです。地方百貨店にも出店していますのでこれは結構な衝撃ですね。ラックラック以外ではワールドが絡んでいる「& Bridge」やパルが絡む「LOCUST」など、大手アパレルも仕掛けている様子。今のところゲオの一人勝ちの様相ですが、このまま日本のTJ MAXXになれるのでしょうか?
ウィメンズの低価格商材が代表的ですが、これらは日々、セール・クーポンだらけなのでそもそもプロパーで売ろうという気は無いように見受けられます。
(もはやプロパーという概念が無いSHEIN)
GWを待たずして春夏の新作対象65%OFFクーポン。プロパー価格の意味とは。 pic.twitter.com/A8KRDoMEnm
— 深地雅也 (@fukaji38) April 26, 2022
(シーズンど真ん中にプロパー対象65%OFFクーポンをぶちこんでくるfifth)
(セールの冠に常に「シークレット」と付いているのにセールに何の秘匿性も無い神戸レタス)
これはほんの一部ですが、ZOZOTOWNなどでも価格の安い順にソートかけるとSHEINと変わらないくらいの低価格商材がわんさか出てきますし、そのような価格帯のブランドがZOZOの売上上位になっていることもしばしばあります。どのあたりが「バーゲンがなくなる」感じなんだ…。
大前提として「プロパーで売る」事が優先されるのは大賛成なのですが、価格帯の高いプレイヤーだけに焦点を当てて「バーゲンが無くなる」と報道するのはちょっと違うのではないかなぁと。高価格帯商材でも商圏が少し変わるだけでまだまだセールはよく開催されてますし。ちなみにセールや廃棄をしても負債は消えませんし決算書はきれいになりません。
そもそも、今シーズンは9月から観測市場最高の平均気温だったり、記録的な暖冬だったりと秋冬の在庫消化が進まず、各社序盤から結構なポイントアップや値引き施策を実行。早いところはブラックフライデーくらいの時期でアウターに見切りをつけて値引きして消化スピードを上げる、などの対策をしていたでしょう。(筆者のクライアントもそのような動きでした)だからアパレル大手の各社は第三Q終了後に業績の下方修正をしている訳で、このような事態を無視してメディアや有識者?が「プロパーの気運高まる」みたいな報道をするのはちょっと早計かなと。
マサ佐藤氏が常々言っておりますが、「粗利が取れる」というのは付加価値の高さなので、世間の気運に任せるものではなく、自社の商品力を担保しなければならない話だと思うのです。世の中の気分が仮にプロパー品に向いているとして、「セールをしない」「プロパーをプッシュ」するだけでそこに注力をしなければ、恐らく在庫消化が進まず、結局セールするしかなくなります。そして在庫が滞留しているのにセール販売しないと、キャッシュが減っていくだけです。偏った報道に惑わされず、自社がやるべきことに注力していきたいものですね。
プロパー販売の強化 pic.twitter.com/ug0XUXRoqh
— 深地雅也 (@fukaji38) May 15, 2022
株式会社StylePicks CEO。ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)
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