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ECの売上を伸ばす理由の一つとして「利益率の改善」があるかと思います。実店舗は家賃・販売員の人件費をはじめとした「販管費」が嵩みやすく、比率で言うと売上の40〜50%は取られてしまう事も多いです。大手アパレルの決算書を確認していましても、その多くは40%台後半。アパレル各社が不採算店舗を閉めて出店を抑制し、売上を徐々にECにシフトしていく、といった背景にはこのような事情も当然ながらある事でしょう。
ではEC化率を高めさえすれば本当に利益率は改善されるのでしょうか?
上記はTSI HDの決算資料ですが、EC化率40%を超えると言われるナノユニバースの粗利率が何と36.1%とめちゃくちゃ低い状況です。コロナの影響もあり、恐らく不良在庫をセールで捌いたのでしょうけど、それにしても中々の数字です。
それ以前からもナノユニバースは粗利率を毎年2ポイントずつ落としていました。店頭が不振な事も影響しているのでしょうけど、EC化率40%という数字を叩き出しても利益率が改善される事はありませんでした。その理由は一体何なのでしょうか?
ナノユニバースは2020年2月期の決算でおよそ270億円の売上。EC化率40%として、EC売上は108億円です。ナノユニバースはZOZOTOWNでの売上が大きく、年間で50〜60億円ほど売っていると予測されています。EC売上の半分程度はZOZOに依存しているという訳ですね。
問題は、ZOZOのようなモールの販促施策は大体がクーポン・セールに偏重しているという事です。セールなら粗利から引かれますが、クーポンは「販促費」なので販管費に計上される事が多いでしょう。ナノユニバースの粗利の算出方法はわかりかねますが、これだけ粗利率が低い理由の一つは、モールでの販売施策によるものが原因と思われます。ECは販管費が低い、と思われていますがこのような落とし穴もあるのです。
当然ながら、どのチャネルにも売上目標があり、それがある以上は前年を割れないと組織から指令が下ります。ECモールはセール・クーポンさえ実行すれば売上が伸びますが、その分ブランドは利益が削られます。(セール・クーポンはブランド側の負担です。)ECモール自体の成長性が鈍化している場合は、取り合うパイも縮小していきます。各社は売上対策をする為に、自社の体力を削りながら値引き施策に偏重。モール側は、売上に対するパーセンテージで手数料を支払いますから、ブランド側が利益をどれだけ削ろうが売上さえ上がればそれでいいのです。奇しくも、企業の前年を割れない売上至上主義と利害が一致してしまっていますね。現場のEC担当者からしたら意味がわからないでしょう。
このように、ECさえ強化すれば利益率が上がる、というのはまやかしに過ぎません。やりようによっては上記のように大きく利益を圧迫します。また、新規獲得コストについては実店舗の方が安いと言われる事もあり、ECのみでブランド運営する事が必ずしも利益率が高くなる、とは言えないのです。
・評価減した在庫をモールでアウトレット的に消化する。
・自社ECでは値引き施策はそこそこに、公式でしか出来ないサービスに力を入れる。
店頭では当たり前に考えていた事が、チャネルが変わっただけで急に別物になっていませんか?
ECだけが好調で、店舗はおざなりになっていませんか?
ECも店舗も、ブランドの方針・戦略・MDが元であり、チャネルをどう調整するかはブランドのおかれている環境によって大きく変わります。何も考えず「EC化率50%を目指します」と言っている事がどれだけおかしな事かはおわかり頂けたでしょうか。
ECは魔法の杖でも何でもなく「ブランドの1チャネル」であるという事を常に忘れないようにしたいものです。
株式会社StylePicks CEO。ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)
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