ファッションビジネス ・リテールMDアドバイス ・マサ佐藤

MENU

ファッションビジネス ・リテールMDアドバイス ・マサ佐藤

ECモールは在庫過多の温床になりやすい?

アパレルECでよく議題に上がる「ECモール運用」。プラットフォームの規模が大きくそこに確かな市場があり、予め集客が担保されている…。出店すればすぐ売上が見込める事から、ファッション・アパレル業界でもECモールへの出店は必須だと考えられています。

一時は大手アパレルが自社EC比率をどんどん高め、「モール脱却か?」と思われる事もありましたが、コロナで急速にモール回帰が目立っています。店頭集客がままらない今、モール出店、またモールに在庫を集める事は売上を最大化するには有効な手段の一つでしょう。

しかし、一方でECモール出店が在庫過多の温床になっているケースがちらほら目立ってきました。筆者のお知り合いのEC関係者でこのような自体が多発していますが、具体的に何が原因で在庫が増えてしまっているのでしょうか。その内容について簡単に記載しておきます。

売上を見込むには在庫を積む必要がある

新規出店するには当然ながら在庫が必要です。これはリアル店舗だろうとECだろうと同様ですね。その分、各ショップで消化率を高めなければなりませんが、リアル店舗ならそのショップで売れない商品は別のショップにすぐ簡単に回す事が可能です。所謂「店間移動」ですね。しまむらなんかは、この店間移動を自社物流でぐるぐる回す事で、コストを削減しながら消化率を高める戦略を取っています。ではモールの場合、これはどのように実行されるのでしょうか?よく使われているのは「在庫連携システム」になりますね。

モール間と自社ECの在庫連携サービスは既に広く使われています。つまり理論上、EC間の店間移動は可能になっています。しかしここで問題になるのが「返品リードタイム」です。例えばZOZOにしか無い在庫を自社ECで受注した場合、一度ZOZOから返品を受けて自社で発送するのですが、このリードタイムが非常に長い。特にここ最近はモール側の倉庫がパンパンになっている事もあり、返品に2週間以上かかってしまうケースもあります。これでは店間移動する前にキャンセルになる確率が非常に高いのです。逆に、モールに商品が無くて、自社ECや店舗在庫を引き当てるというやり方もありますが、こちらに関しては対応していないモールもあったり、コストが高かったりと実装するハードルが低くありません。

対策としては、「なるべくモールに在庫を預けない」事や、「在庫連携する店舗を限定する」などの措置がありますが、課題が多く、在庫連携すれば消化率を劇的に上げれるか?という問いに関してはまだまだ改善の予知があるのです。

 

モールはヒット率が下がりやすい

自社ECと違い、モールはそのブランドの濃い顧客ではありませんので、売れ筋商品に売上が偏る傾向にあります。中にはセール・クーポン対象だから、という理由でお買い物しているユーザーもたくさんいらっしゃる事でしょう。モールはこのような特性から「ヒット率」が下がりやすくなっています。

※ヒット率…全SKUに対して売れたSKUの割合

「ロングテール戦略」という、型数を広く用意する手法はモールにこそ顕著に見られるものです。売れる品番をQR(クイックレスポンス)で追加出来るならそれが一番売り上げアップに寄与しますが、型数の幅を広げるという事は結果として消化率が下がります。

セール・クーポン対象商品を絞ってしまうと、売れる品番に更に偏りが出来てしまいます。ZOZOではクーポン対象の商品量に関する縛りは無いようですが、幅を広げた方が当然ヒット率が改善される傾向にあります。仕組みとしてよく出来ていますね。但し、クーポン金額の3倍以上の商品は必ずクーポン対象にするか非公開にする必要はあります。

楽天なんかでは、スーパーセール時に目玉商品を作ってランキング入りさせ、店全体のトラフィックを上げる、なんていう手法もあり、どのモールでも全体の消化率を考えた売り方とは思えない戦略が採られています。

また、モール側はブランド側に出品を増やしてもらうべく、SKU数が多いショップほど上位表示されるようなアルゴリズムにしています。検索結果の1ページ目に表示されなければCVRは大幅に下がってしまいますから、ブランド側は競合に負けじとなるべくSKUを担保。難しい場合は広告を出稿し、上位表示させます。前者は在庫の温床に、後者は営業利益を削る事につながり、どちらにせよブランドにとってはマイナスでしょう。

(広告出稿の商品には「PR」の文字が入っています。)

並行輸入品が出品されている場合はカートを取られる

Amazonでは競合と同一商品を出品している場合、カートを取れるのは1社だけ、というルールがあるのですが、買う側からするとあまり意識は無いかと思います。カートを取れるのは最安値の商品になるのですが、インポート商品の場合、正規品を売っているショップほどこれが足かせになります。値段を下げてくるのは「並行輸入業者」ですね。

並行輸入…国内の正規代理店を通さず、本国の正規販売店から直接輸入する事。

結果として、同一商品を販売する場合、軒並みカートは並行輸入業者に取られてしまいます。Amazonも楽天も、並行輸入業者を取り締まる方針は一切無く、自社の顧客にとってなるべく安い選択肢を提示する事が目的なのでしょう。出店しているショップのブランド毀損については無頓着な訳です。余談ですが、Amazon直販のアイテムと競合した場合、こちらがいくら商品を値下げしても自動的にAmazon直販はその下に値下げしてくるそうで、カートを取る事はほぼほぼ不可能なようです。

アウトレット店を保有していると有利?

このような事が発生しても大手アパレルがモールから撤退しないのは、販路が豊富だからでしょう。特にアウトレット店舗を多く保有していれば、モールで出てきた在庫を、シーズンが終了した時点でアウトレット店舗に放り込めます。アウトレットも店舗を複数出店してしまえば、その分売上目標を立てられますし、その分在庫が必要になります。余った在庫消化を進める為のアウトレット店舗の売り上げを担保すべく、消化不良の在庫をあてにするのは本末転倒な気もしますが、「アウトレット専用商品」なるものが過去から生み出されている業界なので、今更な話ではありますね。

EC専業の場合、在庫が余れば値引き施策に偏重するケースが多いです。プロパーど真ん中だろうが大幅な値引きセールが実施されるのは、キャリー品を中心に販売しているから、という理由もあるでしょう。(二重価格も多いようですが)この場合、もはやECモールがアウトレット的に機能していますね。

 

モール側の主張としては、自社ECとの共存を唱えていますが、ZOZO・楽天・Amazonなどの主要モールは外部リンクを明確に禁止しています。ソーシャル運用も「モール専用」のソーシャルでないといけませんし、顧客を囲い込む気しかありません。ブランド側は自社の潜在顧客をモールに囲い込まれているかもしれない事に目を瞑り、並行輸入と競合させられ、セール・クーポン負担で利益は削る、更には在庫が増えやすい状況にあるという事です。EC運用になった途端、MDを軽視し、商品回転率や回転日数について無頓着になりがちなのは、バイヤー・MD出身者のようなリアル店舗経験者からすると違和感があるでしょう。「自社ECより集客が担保される」「売上が獲得しやすい」「ブランド全体の売上が伸びる」事に関して否定はしませんが、何がプラスで何がマイナスなのかはよく理解して出店する事をお勧め致します。


 

この記事をシェアする

RANKING POST

1

2020.07.07

大量生産と過剰供給は別物
2

2020.04.27

EC・通販専業ブランドも標準店舗の概念が必要なのでは?
3

2021.10.29

YouTubeは稼げるのか?!YouTube登録者1,000人のリアルな収益を発表

NEW POST

2024.03.28

自社に合ったダッシュボードの作り方

2024.03.26

ロンTは何故売りづらいのか?

2024.03.22

アパレル販売のキャリアと価値

2024.03.21

売上が小さいとデータ分析は必要無いのか?

2024.03.19

継続品の比率を増やせば、業績が回復するのは本当か?(ワコール編)

CONTACT US

小売ビジネスに関するMD(品揃え政策)アドバイス・サポートを
ご希望の方はお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはこちら

TRADINGPERFORMANCE

取引実績