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アパレル業界でもよく課題にあがる「デジタル活用」。EC強化が当たり前になってきている昨今、企業の上層部から「何となくやらないといけないから」くらいの気分で指示が飛ぶことがよくございます。そのせいか新規出店のニュースを見る度に「EC連動型」「メディア型OMO」などデジタル活用を前面にプッシュしたプレスリリースが散見され、業界の片隅に生息している筆者としては一応見に行ってはいるものの、何を目指しているのかがよくわからないこともしばしば。直近でもいくつか注目のショップのリサーチに行ってきましたので、忘備録的に最近チェックした店舗の概要を記載しておきたいと思います。
プレスリリースを見る限りは「サステナビリティ 」がコンセプトになっているようですが、訴求が弱すぎるせいか個人的にはショップからそのようなコンセプトを感じとることは出来ませんでした。あと、サステナは買う理由にはなりにくいし、既に使われまくってヨレヨレになっているし、2周遅れくらいなイメージなので前面に出して使わない方が良いかとは思います。
まず、入店するとWebサイトに記載されているコンセプト文と同じものが出てきます。
いや、J POPの歌詞か。
連呼されている「意味に出合い、意志を買う。」の意味がまずよくわからない。「ブランドの意味(作られた理由?)」に出合い、ブランドの意志(姿勢・伝えたいこと?)を買うということでしょうか?筆者のIQでは理解が及びません。賢い人、誰か教えてほしい。
売り場に関してはプレーン過ぎて「ブランドロゴ」や「説明」がほぼ無い状況。百貨店だと売り場のウインドウなどにカッティングシートでブランドロゴを貼ったりしているのですが、ここは「意味に出合ってくれ」ということなのでしょうか。とは言え肝心のブランド説明文も、
ポエム調で内容が頭に入ってこず。その他はQRを読んでスマホで確認するようなのですが、これが余計不便です。
試しにQRに飛びましたがECで言うところの商品詳細ページに飛び、いきなり単品で製品スペックメインの説明。おい、意味と意思はどこいった。
ちなにみCHOOSEBASEはECサイトと別に、店頭のQRで飛ぶ用のカタログページ(https://catalog.choosebase.jp/ というサブドメインで運用)がありまして、こちらの画像はカタログページです。なので、同じ商品をどちらにも登録する必要があるんじゃないかと。説明文が全く同じなので、同じCSVデータをアップロードしているのでしょうか。ていうか単品訴求ならECに飛ばしたら良かったのでは…。
販売員さんがいたらここでちゃんとした説明してくれるんでしょうけどそれも無く、試着室はあれどほとんど使われていないのでは?という雰囲気。(フェイスカバーのゴミが無かったので。)置いている商品、それほど安いものでも無いので説明が不足していると買う気になりにくいでしょうね。
Fabric tokyoが出店していまして、こちらは採寸が必要だからか販売員さんがいらっしゃいました。しかし、オーダースーツをどうやって決済させるのか?と聞いたところ、やはり自社ECに飛んで採寸データを入力する必要があるようです。初めて来店された方は会員登録が必要になるやつですね。採寸データの入力を自分でするなら、どちらにせよ時間がかかるのでプラスで手間を感じ無いかもしれませんが、できれば事前に会員登録させる仕組みがほしいところですね。恐らく新規獲得狙いなのでしょうから。
ハコになっていない平場のような売り場にはフィッティングルームと姿見がありません。壁面に鏡?のようなものはあったのですが、全身が写る大きさではなかったです。
肝心の決済なんですが、先程の商品ページから「お買い物バッグに入れる」をタップするとLINE・もしくはメールアドレスの入力が求められます。
するとQRが発行され、それがメールアドレスに届くという流れですね。発行されたQRをレジに持っていくと決済が完了です。ちなみに決済手段はクレジットカードとQR決済で、LINE Pay以外の電子マネーは使えず。これ、ECサイトに飛ばしておけば、
ShopifyなのでAmazonペイ・shopペイが使えますから、LINEやメールアドレスの登録がそもそも必要ありません。もしくは個人情報を獲得するのが目的なら、こちらも来店前になるべく会員登録させる仕組みがあった方がいいのではないかと。西武のECと共通のアカウントなら、その後に西武のECをプッシュすることも可能になります。このあたりの設計がちぐはぐなイメージでした。わざわざQRを発行させる意味がよくわかりません。
恐らく、お包み後に商品を取りに行くための整理券的な役割も含めてだと思うのですが、持ち帰る場合は包装するのに大した時間が発生しないのでわざわざレジ前から移動しませんし、お知らせメールが届かなくても問題無いような…。持ち帰らない場合はそれこそshopifyを使っているのでスマレジ連携でレジからEC側に発注の指示出しておけば問題無し。ますますカタログページの意味がわかりません。
あと余談ですがショッパーが必要か聞かれなかったのですが、商品が裸で登場。サステナだからエコバッグ持参しろ、ということでしょうか。(ショッパーが欲しい旨をお伝えしましたら出してくれました。)あと、カフェがあるのに近隣にトイレが無く、男性は隣の館の4階を案内されました。
細かいところで色々と配慮が無かった感じですね。
最後にEC・カタログページの気になった点をいくつか。まずECには「アイテムカテゴリーページ」がありません。
カテゴリーページの切り口は「ブランド」と「展示エリア」。展示エリアからブランドを絞り込むことは可能ですが、アイテムで絞り込みできないのは検索機能が弱いと感じます。型数が少ないから大丈夫、という理解でしょうか?
また、記事コンテンツはいくつかあがっているのですが、商品ページに記事への導線は無し。もちろん、カタログページにも記事への導線はありません。商品のストーリーが一番語られているのがこの記事コンテンツなので、意味とか意志を伝えたいならカタログページにもこちらの導線が必要だと思いますが…。ファッションアイテムは着用画像が豊富な訳ではなく、とにかく全体的に情報量が少ないです。店舗で情報が取れないのにWebでも充実していないなら何を頼りに商品を購入するのだ…。
EC側の視点だとリアル店舗の役割って、
・知らなかった人に知ってもらう機会の創出
・ソーシャル等でリーチしたけれど、物を直接見れなかった人へ手に取って見れる機会を創出
が重要なポイントだと思うのです。D2Cなんかは特に。なのに、アナログの方が簡単に済むようなことをデジタルにわざわざ置き換えて店舗体験の価値を落としているように思えました。デジタルはあくまで「補完」に使えば良いのではないでしょうか。
次に行きましたのがファッション雑誌のFUDGEのSHOWROOM。こちらはショップ自体が小さく、「デジタル活用」と言えるほど特殊な仕組みがあった訳ではありませんので簡潔にまとめます。
こちらはとても仕組みが単純で、店舗にQRが設置されていて、それを読むとFUDGE ONLINEの商品一覧ページに飛ぶ仕組みです。この一覧ページのURLはFUDGE ONLINEにて内部リンクが恐らく無く、サイト内からは回遊できなくなっていると思われます。なので、店舗で見たり、販売員さんから商品の説明を聞いたりして気になった商品をオンラインで決済という流れ。とてもシンプルですね。
課題としては、型数が増えた際にどう対処するのか?ですね。一覧ページなので絞り込みのフィルターを増やすのか?特設ページを複数用意しておくのか?などでしょうか。また、こちらも決済する際に会員登録が必要になりますので、できる限り事前に登録して頂くような取り組みが必要でしょう。店舗で初めて購入をしようと思った方は販売員さんが指示するしかなさそうなので、shopifyのようなエクスプレスチェックアウトも用意しておいて欲しいですね。
このショップ、一応雑誌連動型なのですが、陳列がごくごく普通ですし雑誌側での取り上げ方も弱いです。(1ページだけ掲載がありました。)
雑誌側で特集記事があり、そのコーディネートを上手く店舗側で陳列されていると面白いのでは?と思いますが…。
https://www.instagram.com/third_magazine/?hl=ja
ディスプレイがサードマガジンのような感じであれば雑誌連動型はやりやすそう。こちらは仕組みがシンプルな分、やりようはいくらでもありそうな気はしました。頑張ってデジタルを無理やり活用せずとも面白い店舗は作れるのではないかと。
総括しますと、人に何かを伝えるということって技術的なことよりも熱量や姿勢の方が大事なんではないか?と思いました。例えばD2Cブランドの「COHINA」のinstagramでは、
フィード投稿にて常に「保存」を勧め、コンセプト文を記載し、期間限定の試着型店舗をお知らせしてくれています。このようなお知らせ方法は特別珍しいものではなく、あるブランドではLINE登録のお勧めを毎回フィード投稿に差し込んでいたり、また別のブランドではキャンペーン時にはプロフィール欄にその旨を記載し、URLも期間限定で差し替えていたり。
これらのブランドが実施していることは難しい技術を使っていません。ただ愚直に「伝えるべきこと」を何度も伝えているだけです。人に情報やブランドの思いを伝えるということはとてもハードルの高いものだし、それに対して「やり過ぎ」は無いのだと改めて教えてくれます。ソーシャルメディアの場合、日々新規フォロワーも増えるのですから何度も同じお知らせをした方が良いでしょうし、むしろ昨今は活字が読まれなくなる傾向が強く、しつこいくらいどのチャネルでも訴求し続けないと伝わらないでしょう。顧客に思いを伝えようとする努力や姿勢は施策に現れるので、そもそもご紹介したショップに足らないのは運営側の熱量なのではないかと感じた次第です。カッコつけた文面やテクノロジーを前面に見せたところでお客様は欺けませんよ。
株式会社StylePicks CEO。ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)
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