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話題の企業の在庫を調べてみた!~MD視点でみる決算資料~

★今、話題のTOKYOBASEの在庫が気になった?

初任給40万円が話題のTOKYOBASEさん。初任給40万円の内訳で残業代が多く含まれていることから、ネット界隈では色々と言われていますが、名目はどうであれ、お金を多く払うことは良いことではないか!と個人的には好意的に捉えています。(金を払わないケチな人達が、ネット界隈で文句を言っているのが、一番みっともないと個人的には思っている)
話は変わり、先日、話題のTOKYOBASEさんの月次速報をチェックしていたら、(既存店)実店舗の売上が伸びているのに、ECの売上が大幅にダウンしていることが気になってしょうがありませんでした。24年3月の月次速報には以下の記載があります。

”売上高総利益率を向上させるため、政策的にタイムセールやクーポンによる値引き及びEC向けの低価格帯商品の廃止により、既存店前年対比は70.5%となりました。”

この記載から、私は「(TOKYOBASEの)在庫は大幅に増えているのでは?」という仮説を立てました。何故ならば、上記から見えることは、売上がダウンで粗利率(値引の廃止等の要因)がアップしているということは?在庫が大幅に増えている可能性が高まるからです。事実、TOKYOBASEさんの24年1月期の決算資料に以下の記載がありました。

”商品+4.8億円の要因→ECの下振れ及び中国計画外退店”
注:商品は(商品)在庫のこと

ということで、今回は”MD視点で決算資料を読む~TOKYOBASE編~として、以下の流れで話を進めていきます。

①損益計算書の大枠
②店舗数の推移
③売上・粗利・仕入・在庫→MD視点

では、損益計算書の大枠からみていきましょう。

①損益計算書の大枠

TOKYOBASEさんの過去3年の損益計算書をわかりやすくしたものが、以下の図になります。

特筆すべき点は、コロナ禍真っ只中であった22年1月期。23年1月期と営業黒字を叩き出している点です。この後に述べますが、TOKYOBASEさんは、23年1月期における中国0コロナ政策の影響で収益に大きな損失が発生しています。それでも、なんとか黒字を達成している点は評価すべきだと思います。また、24年1月期は営業利益率で5%弱まで回復していますので、今後に期待したいとことです。しかしながら、MD視点で損益計算書を読んで気になる点が一つ。それは”粗利率の低下です”。22年1月期は粗利率が52.5%あったのですが、23年1月期・24年1月期の粗利率は50.1%と、粗利率がだいぶ減っています。粗利率低下で考えられる要因の一つは、セール・値引き施策の実施の増加なのですが、23年1月期の第1四半期の決算資料に以下の記載がありました。

”当第1四半期連結会計年度の期首から「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用 指針」を適用いたしました。”

とあります。このことの影響が23年1月期の決算資料から読み取れます。以下、TOKYOBASEさんの23年1月期の決算資料から抜粋致しますと。

(主な収益認識基準適用の影響)
• 売上4.0億円減:販管費で計上していた自社ポイント利用分等を売上から減額
• 販売促進費4.0億円減:自社ポイント及び他社モールクーポン利用を売上から減額
• 運賃0.5億円減:自社オンラインストアの運賃を売上原価で計上
• 営業利益0.05億円減で影響額は僅少

とあります。このことを端折って説明致しますと、自社ポイントの値引き利用分やモールクーポン利用分を販管費計上していたのを、売上から減額(要は粗利が減る)するという計算に変えたとのことです。MD的視点でみれば、これは歓迎すべきことであり、値引きした分は粗利が減る!このことで、正しい売上・粗利・在庫管理ができます。結果、23年1月期は1%の粗利率ダウン(前の計算方式より)に繋がっているとのことです。ということは、別の視点みれば、これまでのTOKYOBASEさんが公開していた粗利率は、実際よりは1%前後高めだったと捉えることができます。
また、TOKYOBASEさんは22年1月期より、決算月を2月から1月へと変更しています。よって、22年1月期は11か月の変則決算となります。MD視点でみると、セレクトショップ業態が、決算月を2月から1月へと変更することで起こる事象は、大幅に在庫が減るということです。セレクトショップの2月は、3月へ向けての在庫の積み込み。他社仕入商品の納品の多さから、在庫がマックスに積みあがる時期になります。その2月から1月へ決算月を変更すると、春商品の入荷の本格化がまだなのと、秋冬商品をセールで在庫を減らしていますから、1年でみても在庫が一番少ない時期となります。このことは、この後の在庫の分析でも出てきますから、読者の皆様は覚えておいてください。

②店舗数の推移

次は店舗数の推移です。店舗数の推移とEC売上構成比等は、以下の図をご覧ください。

この図をみると、22年1月期に25店舗出店しています。特に、この時期に積極的に出店していたのが中国です。これは、23年1月期になっても続いています。しかしながら、上述したように23年1月期に中国が0コロナ政策を実施したことで、中国事業が大打撃を受け、24年1月期に多くの中国店舗を退店しました。個人的にはこの判断は正しかったと踏んでおり、そのことで、上記の図をご覧頂くとお分かり通り、実店舗1店舗あたりの売上が大幅に増えています(出退店時期に差があり、数字はあくまで推計です)。中国事業に関しましては、政治的なリスクを考えると、中々難しい面もありますが、今後どう立て直していくのか?に注目です。(*下記の資料は、TOKYOBASEさん決算資料からの抜粋です)
次はECです。ECに関しましては、冒頭で述べたように売上は芳しくありません。24年1月期には、売上50億円を割っており、EC売上構成比も25%を割ってきました(この指標にあまり意味を感じないが(;’∀’))。今後の指針として、ECでのクーポン配布やタイムセール実施を抑制していく!ということが掲げられていますが、このことはMDの在庫にも影響を与えていくので、今後どのような施策を実施していくのか?ということに要注目でしょう。(*下記の資料は、TOKYOBASEさん決算資料からの抜粋です)

ECに関しましては、私より深地さんの方が詳しいので、今後詳細な記事が出てくると思います(笑)。

③売上・粗利・仕入・在庫→MD視点

最後はMD視点での分析です。以下の図は、TOKYOBASEさんの過去3年分の売上・粗利・仕入・在庫の数字を、四半期ごとに纏めた表になります(OTB表)。

MD視点での分析の部分は、以下の順序で話を進めて行きます。
1 仕入・在庫の問題点
2 売上・粗利の問題点
3 MD視点でみる改善案?

1 仕入・在庫の問題点

先に24年1月期の在庫の話をしますと、24年1月期の在庫は約31億円となっており、22年1月期からの2年間で在庫が約10億円増加しています。対22年1月期比でみると、売上が113%に対して在庫が142%となっておりますので、かなりの在庫増と見て間違いありませんが(しかも22年1月期は、11ヶ月の変則決算なので、24年1月期は、実際には売上は伸びていない)、上述したように、中国退店の影響もある筈です。しかもセレクトショップの場合、他社仕入商品は半年以上前の発注ということがザラにありますから、商品を発注した後に、退店が決定しまった_| ̄|○等ということもあったでしょう。更に言えば、24年1月期は暖冬の影響で上場各社とも冬物動きが鈍ったとのコメントも多かったので、その影響も大きいかもしれません。
先述したように、一見ここ2年の外的要因で在庫が増えたように見えるTOKYOBASEさんですが、22年1月期から決算月を2月から1月に変更しています。変更による影響は、先述したように在庫金額が少ない時期の在庫が決算在庫になるという点です。そのことから考えると22年1月期の末在庫は約21億円で少ない時期の在庫です。では、この22年1月末在庫はどうだったのか?と言いますと、コロナ前の20年の2月末在庫をみるとわかります。22年1月期は20年2月期に対して、売上は115.6%(但し、先述したように22年1月期は、11か月の変則決算なので、実際の20年売上比はもっと高くなる)。在庫は116.1%となっています。この数字だけでみると問題がないように見えますが、先述したように、20年2月期は在庫を積んでいるとみられる2月末在庫ですですから、すでに22年1月末期時点在庫の段階で、過去水準に比べて、在庫が増えはじめているといっても良いのではないか?とみてとることができます。仮に、退店等の外的要因のみで在庫が増えたとしても、増えた分の在庫の質も良くない可能性が高いでしょうし、結局はそれらの在庫をお金に変えなければならないのですから、今後に要注目です。
次は仕入です。上記の図をみて気づくことは、毎年第3四半期の仕入金額が総じて多いということです。22年1月期の第3四半期に関しては、中国の出店等が相次いだので、特に突出して金額が多いといえますが、このことは、過去の数字を調べても同様です。以下が過去のOTB表(17年2月期~19年2月期)になります。

第3四半期に仕入金額が膨れ上がる理由を、私の独断と偏見で推測すると、秋冬の立ち上がり他社仕入金額が大きくなる!というのが理由だとは存じますが、MD予算設計管理の精度が低いのでは?というのも要因として考えられることです。

2 売上・粗利の問題点

次は売上・粗利の部分です。先ずは、四半期別の売上構成比をみると、第3・4Q四半期売上構成比が高い傾向にあります。これは、過去の数字をみても変わりません。このことで見えることは、秋冬中心の売上構成比ということになるでしょう。秋冬の売上構成比が高くなるのは、メンズによく見られる傾向です。何故ならば、メンズの方が秋冬の1点単価が、レディースよりも更に上がりやすくなる!というのが理由です。そのことから考えると、TOKYOBASEさんの課題は、レディースにあるのでは?ということが見て取れます。実際に、過去の決算資料にも「メンズは好調だった」という記載がありますから、レディースのMD強化というのが、今後の課題になるのではないでしょうか?
次は粗利です。先日しましたように、会計基準を変えた影響で、以前よりも粗利率が低く出る傾向にありますが、先述したように、在庫は増加しています。特に中国0コロナ政策の影響が大きかった23年下半期から在庫増加を懸念したのか?23年1月期下半期の粗利率は、第3・4四半期共に50%割れです。更に言えば、24年1月期第1四半期も粗利率が50%割れしています。セレクトショップでいう立ち上がりの時期は、他社仕入商品の売上構成比が高くなる傾向があるので、TOKYOBASEでいう第1四半期の粗利率が低く出ることがあるのですが、それにしても、過去の数字と比較しても低い数字です。この理由は決算資料に以下のように記載されていました。

”例年1月に開催していた秋冬物のファミリーセールを2023年は2月に開催したため、売上総利益 率が低下いたしました。”

このことが粗利に影響を与えているわけです。それにしてもファミリーセールの数字が粗利に大きな影響を与えているということは?よほどファミリーセールの規模が大きいのか?と推測できます。事実、一般の方も入場できる規模で行っているようです。

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更に上記のOTB表を詳しく見ますと、24年1月期第3四半期の粗利率は49%を割っているので、中国退店の影響で在庫消化を余儀なくされたこともあるのでしょう。それでも、24年1月期は在庫が前期に比べても4.8億円。2期前に比べれば10億以上増加していますから、ファミリーセール以外の在庫消化の施策も今後必要となってくるのではないでしょうか?

3 MD視点でみる改善案?

売上・粗利・仕入・在庫の数字から見える問題点を、これまで記述してきましたが、MD視点から見える改善策を、以下の順でお伝えします。
1 MD予算設計・期中管理の精度向上
2 レディースMDの強化→客数アップに繋げる

1 MD予算設計・期中管理の精度向上

セレクトショップのMDにおける管理は複雑になりがちです。しかしながら、いい加減な予算設計・管理を行うと期初にオーバー仕入を引き起こし、在庫過多へとつながります。また、期初にオーバー仕入を引き起こすと、期中での仕入枠が減り、気温変化等に対応したMDを取りづらくもなります。その傾向は、24年1月の第3四半期と第2四半期の仕入・在庫金額から見て取ることが出来ます。期初のオーバー仕入を防ぐには、MD予算設計・管理の精度の高さが必要となります。しかしながら、数字ばかり複雑化させると、TOKYOBASEさんの長所を失わせる結果となりかねませんから、TOKYOBASEさんの長所に見合った商品分類のルール等を確立した上で、MD予算設計・管理の形を決める必要があるでしょう。(以下は繊研plusさんでの、MD予算設計に関する私の連載です。是非参考にしてください。)
算数で極める達人MDへの道《第2講》

2 レディースMDの強化→客数アップに繋げる

TOKYOBASEさんの決算資料を見ていますと、オリジナル商品の強化と記載されている場合があります。(*下記の資料は、TOKYOBASEさん決算資料からの抜粋です)

オリジナル商品の強化はもちろんのことですが、特にレディースの強化が必要なのではないでしょうか?レディースの場合は、メンズほど秋冬偏重型のMDに陥りづらい一面があります。また、レディースの方が市場の大きさから考えると、客数アップに繋げやすい部分です。深地さんと一緒にレディースの市場調査に行くと、いつもマッシュのショップに人が多く入っていることに驚きを感じます。マッシュのショップとまではいかないまでも、女子が入店しやすい店構えと品揃えを、ターゲットを意識した上で、再考しても良いのでは?と感じます。(TOKYOBASEさんのレディースは、どのショップ業態も男目線のレディースに見える。)
また、レディースからは話が逸れますが、客数アップの手段として、MDがとることのできる有効な手段は、ヒット商品を生み出す!か、1点単価を下げることです。決算資料を拝読すると、下記の資料をご覧いただいてもわかるように、TOKYOBASEさんは、1点単価を下げるブランドを作る等のことには消極的なようです。(*下記の資料は、TOKYOBASEさん決算資料からの抜粋です)

(上記の図の説明で、持続可能なファッションの創造とか言われると、各方面からクレームが来そうな気がしないでもないが(^^;;))
ということは、ヒット商品を生み出すしかありません。私は、以前鎌倉シャツの貞末会長に、「商品を作る・仕入れる側の人間は、自動販売機でも売れるような商品を考えなければならない!」と教えて頂きました。逆に、販売の仕事に従事されている方々は「この人から商品を買いたい!」と思わせることが一つの目標となります。MD側と販売側の目標は相反するかもしれませんが、「お客様に喜ばれる」という目的は全く同じです。ですから、この相反する目標は、うまく化学反応を起こすと、売れるブランド・ショップを確立できます。しかしながら、TOKYOBASEさんの場合は、販売側に売上を依存する部分が大きいことから、MD・バイヤーの側の視点に立てば「どうせ販売の人が売ってくれるやろ!」→「売れないのは、MD・バイヤーの責任ではなく販売の責任!」という気持ちが生じやすい部分があるのではないでしょうか?もしも、MD・バイヤー側にそのような気持ちが生じているとするならば、ヒット商品を生み出すことはできず、在庫も膨らんでしまいます。MD・バイヤーにとって「自動販売機で売れる商品を目指す!」と貞末会長の言葉こそ、現在のMD・バイヤーに必要な言葉である!と、私は強く感じています。
他にも、TOKYOBASEさんはアウトレット店舗を持っていない等のことから、在庫の最終消化手段を増やす必要があるのでは?とも感じますが、今回はその部分には触れません。
ということで、今回長い記事になってしまいましたが、働く人にお金を多く出す!という姿勢は、とても良いことだと存じますので、TOKYOBASEさんの今後に期待をして、今回の記事は終了です。

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