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アパレルの決算書で毎年のように出てきます「プロパー販売の強化」や「プロパー消化率アップ」なる文言。もちろん仰られることはよくわかりますし、利益率を高めるには定価販売で売れる確率を高めるのが一番です。ですが、そのための行動は伴っているのでしょうか?特にECの動きを見ていると疑問に思うことが多々あります。
大手でZOZOやAmazon、楽天のようなモールに出品していないブランドの方が少ないと思いますが、皆様ご存知の通りモールは売上対策の多くが値引き施策です。プラットフォーム側からすると並んでいる商品のほとんどが委託販売ですから、プロパーだろうがセールだろうが売上高が伸びれば、その分の料率で自社に収益が入ってきます。なのでCVR(コンバージョンレート)が上がりやすいセール・クーポンを打てば打つほどメリットがある訳です。仕入れコストと在庫リスク無いって最高ですね。
商品ページへの導線も、「クーポン・セール対象」のバナー(ECサイト内・モールからのメルマガ・LINEにて)から誘導されるケースが多いでしょうから、値引き施策に乗っからないと売上が取りにくい。結果として値引き施策に偏重するので、モールに出品しながらのプロパー販売強化は非常に難しいのです。ZOZOではトップクラスの売上を誇る某ブランド、決算書では毎年粗利減ってますからね。
自社のLINEを活用して自社ECだけでなく、モールに送客するケースもよく見られます。(LINEだけでなくソーシャルでもありますね。)自前で育てたチャネルで送客するのですから、ブランドとしてはなるべく利益率が高いショップで売りたいはず。わざわざ手数料・顧客情報を取られるモールに送客してしまうのは悪手でしょう。モール内でプロパーで売れても営業利益に影響が出ます。上記の画像のようにクーポン配信時ならさらに値引きするのですから営業利益はさらに削られます。
これは実は過去、リアル店舗の時にも発生していた事案ですね。商業施設は出店先によって歩率が変わります。(百貨店なら消化仕入れの掛け率が館やブランドによって違います。)
■A百貨店では掛け率が65%・B百貨店では掛け率が73%
上記の場合、もちろんBで売る方が利益率が上がります。結果として会社としての判断は積極的にBに商品を送るのですが、リアル店舗で出来ていたことがECになると忘れられるのはやや不可解です。
プロパー販売が忘れられがちなのがECの中でも「広告」の指標でしょうか。広告代理店が出してくるレポートの指標の多くが、
「imp」…表示回数
「CTR」…クリック率
「CPC」…クリック単価
「CV」. …注文件数
「CVR」…買い上げ率
「ROAS」…広告の費用対効果
などなど。
この数値だけを見ておりますと「売上」や「買い上げ率」ばかりに目が行きがちで、肝心の利益を追わないケースが発生します。代理店だけが悪い訳ではありませんが、あらかじめ用意されたKPIだけ追っていてもブランドにとって不利益を被っているのに気づかないこともあるのです。
上記の場合ですと、
・広告経由で売れたアイテムがプロパーなのかセールなのか?
・施策によってどの程度粗利が出たのか?
・新規獲得はどの程度あったのか?
など、かけたコストに対する成果の深掘りが重要になります。コストをかけてでも認知を取りにいったり、新規獲得を促進したり、という目的もあるでしょう。施策ごとにKPIを設定し、それに対しての評価をしなければなりませんが、そのあたりも忘れられていることが多い印象です。
最近ではECにて新作の予約販売時に10%オフする施策がちらほら見られます。理由は「初動を見てから追加発注に生かす」というお話らしいのですが、予約販売の時点で新作に注目しているのは濃いめの顧客じゃないんですかね。この方々、「早めに売り切れたら嫌だから予約しておく」というマインドだと思うんですよ。それを商品販売前から値引き販売するのがよくわかりません。むしろ売り切れ続出するような人気アイテムを予約対象にしておいて、早めに売り切る方が「プロパー販売強化」につながると思うのですが…。データが取りやすいECかもしれませんが、本末転倒な施策ではないでしょうか。
いくつか事例をあげましたが、これらのことを理解した上で「プロパー販売を強化」という方針を打ち出しているのか疑問に思うケースばかりです。セールをするなと言いたい訳ではありませんし、こちらのブログオーナーであるマサ佐藤氏もよく言っております「粗利目標」を定めておき、その達成に向かっているなら良いかとは思います。
しかし、現状は現場でどのようなことが起こっているかわからないまま方針を打ち出しているのではないか?とも感じられ、これなら「粗利・営業利益を最大化」という方針に切り替えた方が、現場の行動にも影響を与えられるのではないかと。大きな方針を打ち出す際は、それがどのような影響を現場に与えるのか?まで考えなければ、実行される施策がトンチンカンな方向に行ってしまうかもしれません。「クーポンはプロパー販売にとって重要!」なんてその最たるものですから。
株式会社StylePicks CEO。ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。Twitter(@fukaji38)
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