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今回は久しぶりに時事ネタに触れたいと思います。先日、ネットを見ていると下記のニュースが目に入ってきました。
この会社は、HIKAKINさんを始め、多くの人気YouTuberが所属する会社です。そして、上記の記事の中に以下の文言がありました。
”売上原価にP2Cブランド(YouTuberらを起点としたブランド商品)の棚卸資産評価損を7億円弱計上しており、これも営業損益に響いた。コロナ禍で見通しが不透明な中、欠品を防ぐために強気の仕入れを行った影響という。”
知名度の高いYouTuberが、自ブランドを立上げ商品を販売することも、この会社の収益であるのは間違いありませんが、主な収益は、YouTube等の再生回数からくる広告収入が主です。この会社の売上は約230億円ということですから、この在庫の評価減7億円が如何に大きい金額か?ということが、記事より理解出来ます。(上記の記事から推測すると、P2Cブランド等の23年度売上は約41億円)評価減していない在庫もかなりの金額があると推測されますから、私の専門であるMDの観点でいえば、この組織のP2Cブランドの多くは、在庫コントロールに失敗しているとみてよいでしょう。
そして、今回記事に掲載された例(素人商売で在庫過多)は、D2Cブランドやインフルエンサーのブランドでも多く起こっていると推測されます。しかしながら、私は芸能人やインフルエンサーという知名度の高さだけを売りにして、ブランドを立ち上げることに反対のスタンスではありません。何故ならば、芸能人やインフルエンサーやYouTuber等の知名度が高さというのは、ブランドを立ち上げる際に、圧倒的に有利になるのは間違いないからです。しかしながら、事業継続させるには、新しいブランド等の事業を立ち上げる前の事前準備。前始末をしっかりと行うことが重要です。
ということで、今回は私の専門であるMDに関することを中心に、ブランドを立ち上げる前に行うべき前始末を、以下お伝えします。ブランドを立ち上げる前に行ってほしい前始末は以下の通りです。
①コンセプトメイク→出来るだけ具体的に!顧客ターゲット等
②商品の調達先→ミニマムロット・LTの確認
③ベースとなる大枠のMD戦略(適量・適価等)とMDにおける商品分類ルールの策定
④損益設計
⑤MD予算設計をする(シミュレーション)
⑥客数・客単価から見える販売・集客戦略
以上になります。では、順を追って簡単に上述した内容を説明致します。
当たり前のことですが、一番大事になるのはこの部分です。周囲のメンバーから理解を得られるよう、具体的に分かりやすい言葉にすることも重要となります。また、この部分が具体的に作成されていないければ、MDでいう5適もままなりまません。更に言えば、顧客ターゲットは自身のファン!でも良いのですが、インフルエンサー等は、人気がいつまで持続するかはわかりません。ですので、自身の知名度に頼らないコンセプトからみえる顧客ターゲットを具体的に設定することも重要でしょう。
小売業を開始する際には、当たり前のことですが、商品の調達先を確保しておく必要があります。特にミニマムロット・リードタイム(以下LT)等は、在庫に多大な影響を及ぼすので確認が必要です。
ブランドコンセプトが確定しましたら、大枠のMDのイメージ(適品・適時)を固める必要があります。ですがその前に、MDにおける商品管理・分類ルールを、具体的に作成する必要があります。特に、販売期間を具体化するルール(適時ルール)と顧客ターゲットの心理・行動を表すルール(適品ルール)を、具体的に作成することが重要です。この部分の設計が、ブランドを運営し始めてからの商品分析や予算設計に大きな手助けとなります。
その後に、大枠の売上構成比の設定をする必要があります。このことで、「自分たちのブランドはこんな商品をお客様に売りたい!」という意志表示を数字で行います。そして同時に、商品の価格設定(適価)戦略を、各分類ごとに具体的に行う必要があります。お客様が一番気になる部分が価格とも言えますので、このことを疎かにしては、ブランドなどすぐに崩壊してしまうでしょう。
次は損益設計です。EC専業で事業を考えておられる場合の販管費の算出は、先日アップされた深地さんの記事をご覧頂ければと存じます。
話を戻しまして、損益設計がMDに大きな影響を及ぼすのは、粗利率の設定です。このことによって売上予算も確定します。また、②の部分でミニマムロット等の確認をする際に、同時に値入率(原価率)の設計を行う必要があります。このことで、MDにおける基本的な仕入設計が定まります。ここで注意しなければならないのは、無理筋な粗利率を設定し、値入率を引き上げなければならない場合です(原価率の場合は引き下げる)。そのことによって、ミニマムロットが増大する可能性や商品のクオリティが下がることもありえます。ですので、まずは身の丈にあった値入率・粗利率設計を考えるべきでしょう。
損益設計まで終えれば、MD予算設計が必要となります。このことで年間の商品計画の道筋が定まります。この件に関しましては、繊研plusさんで以前連載しておりましたので、以下の記事をご覧くださいm(__)m。(この作業で、大枠の各カテゴリー・1アイテムあたりの平均数量等が算出出来ます。)
①~⑤のことが終了すると、大凡の(商品の)1点単価が算出できます。コンセプトに基づいた販売・PR計画等に紐づけて、買上率・SET率の目標が設定できれば、年間で必要な客数と客単価が算出出来ます。この数字目標が達成できるよう行動目標を立て、PDCAを回していくことが重要です。
以上、ブランドを立ち上げる前に行う前始末を、MD中心にお話しましたが、特にアパレルブランド等を立ち上げる場合は、上述したこと以外にも、誤表示や優良誤認を防ぐために、生産管理的な商品の知識を身につける必要があるでしょう。(特にインフルエンサーブランドなどは、この辺の認識が甘い気がする。。。)
長い文章になりましたが、この記事が新規ブランド・事業を立ち上げたい方々のお役立てれば嬉しく存じます。今回の記事はこれにて終了です。次回もよろしくお願いいたします。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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