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今回は、マーチャンダイザー(以下MD)へ向けて、在庫の話をお伝えします。多くのアパレル小売業が、在庫の件で悩まされるのは商品のミニマムロットです。因みに、ミニマムロットを端折って説明致しますと、商品を製造・仕入する際の最小単位のことになります。商品を製造・仕入する際の理想は、売れる分だけ仕入れる!このことです。しかしながら、ある商品の1アイテムの必要数量が10点だとした場合、このブランドが製造を依頼している業者のミニマムロットが20点だとすると、必然的に10点余計に仕入をしなければなりません。このミニマムロットによる余分仕入が、アパレル小売業にとって悩みのタネとなります。
しかしながら、このミニマムロットがなくなると、製造業者側の作業が非効率になり、商品の原価が跳ね上がるだけでなく、製造業者側の経営が成り立たなくなります。私は製造の専門家ではないので、詳しいことは他で調べてもらうと良いのですが、アパレル業界にとって、商品のミニマムロットは必要不可欠なものです。
ということで、ミニマムロットが在庫に与える影響がどのくらいあるのか?を、ある架空の組織を例に、以下簡単なシミュレーションしてみます。ある架空のブランドAは以下の通りです。
【ある架空のブランドA】
・年間売上15億円 ・粗利率52% ・値入率60%(売上の120%の仕入が可能)
・レディースカジュアルブランド ・販売期間2か月→年間アイテム回転6 ・リードタイム2か月(商品の追加発注不可能)
・1点単価10,000円 ・1アイテム2カラー・2サイズ展開(4SKU)
・標準展開アイテム数150→年間900アイテム投入
・ミニマムロット1カラーあたり100点
更に、条件を付け加えます。当然のことながら、すべての商品が均等に売れる筈もありません。ということで、以下の条件を付け加えます。
・Aランク商品(売れ筋)投入アイテム数の20%。平均売上数の2倍売れる。
・Bランク商品(平均)投入アイテム数の60%。平均の売上数。
・Cランク商品(見せ筋)投入アイテム数の20%。平均売上数の半分の売上数。
因みに、上記から見える、1アイテムあたりの平均売上数は?
→(15億円(売上)÷10000円(1点単価))÷900(投入アイテム数)≒167(1アイテムあたりの平均売上数)
となります。(注:今回は売上数=仕入数とします。)では、各ランクごとにどのくらいの商品数量が余るのか?をシミュレーションしていきます。
→900(投入アイテム数)×20%=180(Aランク商品のアイテム数)
→167(1アイテムあたりの平均売上数)×2倍=334(Aランク商品の2アイテムあたりの平均売上数)
となります。今回の設定は1アイテムあたり2カラーですから、仮にカラー比率50%ずつだとすると?
→334×50%(1カラーの発注比率)=167(1カラーあたりの発注数)
となり、ミニマムロットによって商品が余ることはありません。
→900(投入アイテム数)×60%=540(Bランク商品のアイテム数)
→167(1アイテムあたりの平均売上数)×1倍=167(Bランク商品の2アイテムあたりの平均売上数)
となります。Bランク商品もカラー比率が50%ずつだったとすると?
→167×50%(1カラーの発注比率)≒83(1カラーあたりの発注数)
となります。結果、カラーミニマムロット100-83=17となり、1カラー17点。2カラーで34点の商品が余るという計算になります。Bランク商品の年間投入アイテム数は540ですから。
→540×34点(1アイテムあたり余る点数)≒18,360点(ミニマムロットによって余る在庫数)
となり、年間で約1万8千点の商品が残るのは確定です。
→900(投入アイテム数)×20%=180(Bランク商品のアイテム数)
→167(1アイテムあたりの平均売上数)×0.5倍≒83(Cランク商品の2アイテムあたりの平均売上数)
となります。Cランク商品もカラー比率が50%ずつだったとすると?
→83×50%(1カラーの発注比率)≒42点(1カラーあたりの発注数)
となります。結果、カラーミニマムロット100-42≒58となり、1カラー58点。2カラーで約117点の商品が余るという計算になります。Bランク商品の年間投入アイテム数は180ですから。
→180×117点(1アイテムあたり余る点数)≒21,060点(ミニマムロットによって余る在庫数)
となり、年間で約2万1千点の商品が残るのは確定となります。
ある架空の組織のAは、カラーミニマムロットが100点だった場合、年間約3万9千点の在庫が、ミニマムロットによって余るということが確定だということです。また実際は、2カラー展開の場合、カラーにメリハリをつけて発注するので、売る想定でない色はより余ることになります。この結果を見て、余った商品はセールをして売れば良いではないか!という声が上がるかもしれませんが、上記の想定では、値入率60%粗利率52%となっており、売上の120%の仕入元売価金額が仕入可能です。最初の段階から年間16.7%OFFのセールを想定しているということになりますから、想定通りのセールを実施をしても在庫が余ることになります。
今回のシミュレーションは、カテゴリー分類等を設定せずに行っていますが、基本的にはどの組織も上記のようなシミュレーションを実施することは可能ですし、算数でできることです。事前に余る在庫の想定が出来ていれば、自分たちの規模に見合った商品調達先の選定や余った在庫を処分する手段の構築、原価率を上げミニマムロットを少なくしてもらう等の対策を、具体的に計画・実施することが可能となります。「ミニマムロットで在庫が余るのは仕方ないや_| ̄|○」とあきらめる前に、事前シミュレーションを緻密に行うことが大切だ!ということを訴えて、今回の記事は終了です。次回もよろしくお願いいたします。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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