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ここ最近、決算クイズを作成するために、多くのアパレル小売りの上場企業の決算資料を読んできました。
そんなある日、現在TOBで話題になっているライトオンの23年8月期の有価証券報告書を読んでいると、以下の文言がありました。
当社は、シーズンを8つのシーズン(年間・梅春・春・初夏・盛夏・晩夏・秋・冬)に分けて管理しており、これらのシーズンの中で当期中に販売を終了する「シーズン在庫」と複数シーズン・年度にわたって販売を継続する「継続在庫」とに区分しています。
当社の商品は計画保有数量への調整のため値引き販売される場合があります。また、「継続在庫」「シーズン在庫」は販売期間終了後に在庫が余った場合、在庫数が一定在庫以下である場合は「持ち越し在庫」として販売可能な売価水準に引き下げられ値引き販売しております。(ライトオン23年8月期有価証券報告書から抜粋)
上記の文言から、ライトオンがMDにおける「適時」の分類を綿密に行っていることが分かります。弊社ブログでも繰り返し述べているように、適時に関するルールを具体的に設定することは、在庫の消化だけでなく、昨今の気候変動への対応にも不可欠です。しかし、実際のライトオンの店頭では、せっかくの適時のルールが十分に機能しているようには見えません。
ライトオンの「適時」分類が機能していないと考えられる点は複数考えられるのですが、特に私が懸念している点は、適時に関するルールが具体的に定義されていないのでは?という点です。先述したライトオンの適時に関するルールを紐解くと、シーズンを8つの構成で分類し、区分は「継続」と「(その他)シーズン」の2つに分類しているとあります。「適時」における分類を細かくすること自体は問題はないのですが、MDにおける実務にどのように運用していくのか、この点が重要となります。
基本的に、「適時」における「区分」の定義は、予算化(売上、粗利、仕入、在庫)することであり、商品の(最終)販売終了日を定義づけする必要があります。ライトオンの決算資料の文言を読み解く限り、「区分」の上の階層に「8つのシーズン」があるように捉えることができます。このことから考えると、仮に(ライトオンでいう)8つのシーズンまで予算化しているとすれば、(MDの)作業負担が大幅に増大し、ライトオンの品揃えを考慮すると、そこまで細かく予算化することに意味を見出しにくいと言えるでしょう(そもそも、そんなに詳細にMD予算を組んでいない可能性もあるが。。。)。 そのため、予算化するシーズン区分を明確に設定する必要があります。過去の気候であれば、春夏・秋冬区分で十分対応できましたが、現在の気候変動を考慮すると、「盛夏(晩夏・初秋)」区分も必要となるでしょう。 それでも、MDにおけるシーズン区分は、継続を含めて4つ程度で十分であると考えられます。
次は「継続品」に関することです。「継続品」という区分を設定する上で大事なことは、「継続品」の選定基準を明確にしておくことです。
例えば、来年・再来年も店頭で展開する商品なので、「継続品」と位置づけてはいけません。例えば、気温によって売上に大きな変動がある場合には、春夏や秋冬区分に商品を区分けするべきですし、店頭にずっと展開している定番品だから「継続品」と位置づけていても、売上が芳しくなければ、その商品は「継続品」として区分すべきではありません。定番品でも売上が芳しくない場合は、「継続品」からの降格を考えるべきですし、定期的に「継続品」の検討会議等を設け、継続品として機能していない商品は、継続品から降格させるべきです(その逆の昇格もあっても良い)。このことで、「継続品」の(無駄な)在庫増大を防ぐことに繋がります。
ライトオンに関して申しますと、上述したように「区分」の上の階層に「8つのシーズン」があると推測され、その場合の「継続品」の定義は、決算資料の文言にもあるように、「複数シーズン・年度にわたって販売を継続する商品」という定義になるのでしょう。このことが必ずしも間違いというわけではありませんが、商品管理が複雑になりすぎないように分類ルールを整理する必要があるでしょう。
また、ライトオンにおける「8つのシーズン」についても、明確に定義しておく必要があります。この定義が曖昧なままでは、不必要な仕入が増加し、結果として在庫過多につながる恐れがあります。 具体的にどのような定義が必要なのでしょうか。以下に考えられる点を整理してみます。まず、8つ等に分けられるシーズンは、適時分類における「区分」の下の階層に分類すべきです。今回はその下の階層のことを「コード」と呼ぶことにします。
「適時」における分類を、MDにおける実務にどのように運用していくのか、この点が重要となります。 基本的に、「適時」における「区分」の定義は、予算化(売上、粗利、仕入、在庫)する!とすべきですし、「コード」を設定する目的は、商品分析の精度をあげ、次シーズンのMDに活用すること!このことが目的となります。従って、コードの定義づけに商品の投入時期を定義づけしておくと良いでしょう。さらに、「コード」の定義として、コードの想定販売終了日を設け、商品の販売期間を明確にすることが効果的です。この取り組みは、商品の分析だけでなく、実店舗において商品を陳列から外すタイミングを明確にし、販売員の作業負担を軽減する効果が期待できます。
今回の記事では、MDにおける「適時」に関するルールについて述べてまいりましたが、ルールを考える際に最初に留意すべきは、自社のブランド・ショップコンセプトです。 例えば、若年層女性をターゲットにしたレディースブランドでは、シーズンコードを細かく設定した方が、よりトレンドに合わせた商品展開が可能となるでしょう。一方、ライトオンのようなジーンズカジュアルブランドは、定番商品が多く、販売期間が長い傾向にあるため、必要以上にシーズンコードを増やす必要はなく、むしろ継続品の定義を明確にすることが重要です。このように、ブランド・ショップのコンセプトやターゲット顧客によって、最適な適時ルールは異なります。 この点を理解していただければ幸いです。今回の記事が読者の皆様方のお役に立てれば幸いです。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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