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先日、バロックジャパンリミテッドのMD改善についての記事を書きました。
上述の記事で、私はバロックジャパンリミテッドのMDについて、以下の問題点を指摘しました。
24年3月の売上が低迷した要因は、3月の気温が低下したとのことでしたが、実は24年2月期の第4四半期の仕入を減らしすぎたのも痛かったのでは?と、私は仮説を立てています。
このことを端的に示したのが、バロックジャパンリミテッドとは対照的に、24年度の売上が好調と伝えられるユナイテッドアローズ(以下UA)です。現在、決算記事を執筆するため、UAの決算資料を読み込んでいます。その中で、25年第1四半期の決算説明会資料に以下の記載がありました。
積極的な在庫調達による売上増加
・商品力を高めた上で積極的に在庫調達
・小売、ネット通販ともに成長、 特にネット通販の販売機会ロスにつながる
このことは、決算資料の数字の推移から読み取れます。
この事実から言えることは、目先の在庫の多さやプロパー消化を意識しすぎて、仕入れを抑制しすぎると、販売機会のロスにつながり、結果として売上が低迷してしまう可能性が高いということです。
(24年3月期第4四半期の仕入は前年同時期の111.7%となっており、仕入を増やしているのがみてとれる。また、25年3月期の第1四半期の仕入も前年同時期の113.8%となっているが、25年3月期第1四半期の在庫は、前年同時期の107%となっており、増やした仕入が売上に繋がっているのがわかる)
ここで少し話を変えまして、今回取り上げた両社とも、決算資料でプロパー消化率に触れていますが、このブログでも繰り返しお伝えしているように、MDの実務においてプロパー消化率は、実用的な指標とは言えません。MDにおいて重要なことは、売上、粗利益、そして在庫回転率の予算(目標)を達成することです。目標達成の近道は、顧客に支持される商品を品揃えするなど、プロパー消化を高める施策を打つことです。そして、この目標達成の第一段階として、組織から与えられた売上・粗利予算に対して、仕入予算をどのように設計するかが非常に重要になってきます。
例えば、年間売上予算が1億円、粗利率予算が55%の場合、売上原価は4,500万円となります。「売れる分だけ仕入れる」という仕入の基本に基づけば、仕入原価予算も売上原価予算と同様に4,500万円と設定するのが一般的です。更に値入率の設定を加えることで、余分仕入の数字が決まります。上記の例の対して、値入率の設定を65%(原価率35%)と設定すると、仕入元売価で約1億2857万円の仕入が可能となります。売上予算は1億円となっておりますから、2857万円の元売価分の余分仕入が可能となります。この余分仕入分を値引施策を行うための金額だと設定すると、年間約22.2%OFFのセールを想定しているということです。
付け加えると、来期に持ち越せる在庫(キャリーオーバー品)の金額を設定することで、上記に加えて仕入れを行うことが可能です。ただし、持ち越せる在庫のルールを明確に定めておかないと、翌期に在庫過多となり、結果として翌期の仕入を減らす必要が生じるなど、本末転倒な事態になりかねません。そのため、持ち越せる在庫のルールを組織全体で具体的に決めておくことが重要です。ここまでが事前の設定です。(仕入予算の設定・持越しルールの考え方は下記の記事ご覧ください)
次は期中に入ってからの対応です。仮に、ヒット商品の登場や商品の機会ロス削減等の期中の施策が奏功し、商品のプロパー消化が順調に進み、大幅な値引きが不要になった場合、(持越しルールを加味しなければ)売上は最大で約1億2,857万円、粗利率65%が期待できます。
冒頭の話に戻りますが、売上と粗利の目標達成のためには、仕入を抑制し在庫を持たないことは危険です。重要なのは、これまで述べたように、事前の売上・粗利率予算の設定と、値入率を設定することで余剰仕入を計画的に行うことです。さらに、期中に商品の機会ロスを減らす等のプロパー消化を促進するための施策も必要となるでしょう。プロパー消化率をKPIに設定する組織は、先述したことを十分に理解していないように思われます。仮に、プロパー消化率をKPIとするならば、事前にそのKPIに基づいた仕入計画を立てる必要があります。高いプロパー消化率を目標とする場合、仕入量を大幅に抑制せざるを得ないでしょう(プロパー消化率をKPIにして、仕入計画を立てることは、矛盾が生じる部分が多々あり、かなりの無理ゲーです)。また、プロパー消化率というKPIを気にしすぎると、商品の売価変更する判断が遅れ、大幅に在庫を残してしまう可能性が高まります。つまり、プロパー消化率をKPIとする組織は、MDにおける事前準備と期中の販売促進を混同している可能性が高いということです。
繰り返しになりますが、プロパー消化率は、MDの実務において使える指標となりえません。重要なのは、MDの基礎知識を習得し、事前の商品計画と期中の販売状況に応じた対応を的確に行うことです。要するに、MDの全体像を捉え、多角的な視点からMDにおける事前準備と販売促進に取り組むことが重要です。ということで、今回の記事は終了です。次回も宜しくお願い申し上げます。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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