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先日、繊研新聞で以下の記事を見つけました。
《決算発表から》バロックジャパンリミテッド村井博之社長 「プロパー販売にこだわり過ぎた」
この記事の中で、村井社長は以下のように述べています。
プロパー販売にこだわり過ぎてしまい、機動的な商品の消化を阻害してしまった
バロックジャパンリミテッドにおいて、特に売上が厳しいのは、アズールバイマウジーを中核とするSCブランドです。SCブランドは、25年2月期第2四半期時点で、前年比94.1%と売上を減少させており、決算資料ではその要因が以下のように説明されています。
客数減の主な要因として、 多品番・小ロットのMD設計で展開商品数を増やした結果、一部商品の欠品が発生したことに より売上機会を逃す。また、ブランド価値を維持するため売価変更を抑制したが、 売上高としては期待どおりに伸びず、売上総利益が苦戦
上記の課題に対し、バロックジャパンリミテッドは以下の解決策を提示しています。
〇SCブランドのMD設計の適正化を図る。具体的には、在庫欠品を回避するため品番の 絞り込みを行うとともに、キャリー在庫とのバランスを図るため仕入量を適正化する
〇SCマーケットのセールニーズに合わせた、機動的な売価変更を徹底する
このMD解決策が、バロックジャパンリミテッドのSCブランドの課題解決に繋がるのか、以下、考察を進めていきます。
先ずは、在庫欠品を防ぐための品番の絞りこみに関してです。品番の絞り込みを行い、売れ筋商品の欠品を防ぐには、商品の販売期間を伸ばし、 1アイテムあたり平均の数量を増やす必要があります。しかし、この施策にはリスクもあり、商品の販売期間 が長くなることで、店頭の鮮度が維持しづらくなります。その結果、トレンドの変化を店頭で表現することが難しくなり、 トレンド意識の高い女性顧客への訴求力が低下する可能性があります。上記の解決策として、サイズ展開の縮小など、SKUを削減する手段が考えられます。しかし、アズールバイマウジーのサイズ展開をECサイト等で確認したところ、すでに十分に絞り込まれており、この手段は現時点では効果的ではないでしょう。むしろ、販売期間の設定以前に、投入アイテム数が過剰であったことが、問題の原因の一つである可能性が懸念されます。そのため、今後の改善に期待したいところです。商品のアイテム設定については、下記の過去記事をご覧ください。
次に、「キャリー在庫とのバランスを図るために仕入量の適正化をする」という部分です。バロックジャパンリミテッドが定義する「キャリー品(持越し商品)」が不明確ですが、仮に販売期間を終了した商品を、翌年に(プロパー店舗で)再展開することを指すのであれば、文言のとおり仕入量を調整する必要があります。しかし、レディースアパレルはトレンドの影響を受けやすいため、翌年にキャリー品を展開しても売れる可能性は低いと考えられます。また、仕入を削減すれば、新規商品の仕入も減らす必要が生じ、翌年の売上に悪影響を及ぼす可能性があります。個人的には、この施策の精度の低さが、今年の売上減に繋がっている要因の一つと推測しています。その理由は後述致します。
次の可能性として、キャリー品が「継続展開商品」を指すのであれば、仕入量を調整するだけでは不十分で、在庫回転目標を明確にし、仕入・在庫予算を体系的に設計する必要があります。この点については、下記の記事をご参照いただければ幸いです。
最後は「機動的な売価変更を行う」という部分です。機動的な売価変更を実施するためには、仕入予算設計の基本を理解することが不可欠です。「売れる分だけ仕入れる」という仕入の基本を踏まえつつ、粗利率と値入率の設定、そして両者の差をどのように設定するかが、売価変更の事前計画となります。バロックジャパンリミテッドの場合は、ある程度の余分仕入が可能な粗利率と値入率の設定にする必要があるでしょう。より詳細な内容については、下記の記事をご参照ください。
今回は、バロックジャパンリミテッドのMD解決策を参考に議論を進めてきましたが、以前、私はバロックジャパンリミテッドの決算をMDの視点から分析し、記事にまとめたことがあります。
この中で私は、24年3月の売上低迷の要因を以下のように分析しています。
24年3月の売上が低迷した要因は、3月の気温が低下したとのことでしたが、実は24年2月期の第4四半期の仕入を減らしすぎたのも痛かったのでは?と、私は仮説を立てています。
事実、24年2月期第4四半期の仕入原価金額は、25年2月期第1四半期の売上原価を下回っています。更に付け加えると、2024年2月期の第4四半期に仕入を大幅に削減した背景には、2024年第3四半期までに過去最高の在庫金額に達していたことが大きく影響しているのではないかと推測されます。以前、私が執筆した記事でも指摘したように、バロックジャパンリミテッドのMDには、計画性よりも直感的な部分が強く見られる傾向があると感じられます(プロパー販売に拘って、失敗した点もそう考える理由の一つ)。そのため、同社のMD改革は、決算資料に記載されている内容にとどまらず、より体系的な見直しが必要なのではないかと考えられます。また、商品そのものの魅力を高める必要もあるでしょう。因みに、下記の記事で村井社長が言及しているように、バロックジャパンリミテッドのSCブランド戦略を推進したのは、村井社長ご自身です。
https://myroad-online.jp/keyperson/murai_hiroyuki/
故に村井社長には、自ら先頭に立ってSCブランドのMD改革を推進していただくことを期待いたします。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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