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以前にも記事にしましたが、今回は改めて商品の追加発注についてお伝えできればと存じます。商品のリードタイム(以下LT)が長期化する中で、以前に比べて商品の追加発注の機会が減少しているのではないかと推測されます。しかしながら、LT以上に販売期間を長く設定している商品や、1年中展開している通年商品の比率が高い場合、商品の追加発注の精度を上げることは、組織の業績向上に直結します。そこで、今回は商品の追加発注をする際に意識・注意すべき点、加えて、商品の追加発注の手法を、読者の皆様にお伝えできればと存じます。
先ず、商品の追加発注を行う際に意識しなければならない点は、商品の販売開始日からできる限り早い段階で商品の追加発注を判断しなければならないということです。商品の追加発注の判断が遅れるということは、販売機会の損失に直結し、その分だけ売上・粗利益の損失につながるからです。したがって、マーチャンダイザー(以下MD)は、日々の単品商品別売上、粗利益、在庫データをチェックしなければなりません。また、MDが商品の追加発注数を算出するためのシミュレーションでは、下記の情報を使用します。
①LT
②販売期間・終了日
③過去データ
それでは、例題に基づき、状況に応じた商品の追加発注パターンをいくつかご紹介します。
(例題)
23週から販売開始のレディースTシャツ商品Aは、23週の売上が27点でした。商品Aの初回発注数は260点で、販売終了日は34週末日です。24週の月曜日に追加発注を行うと、29週の月曜日に商品が入荷します(LT約1か月)。商品Aは何点追加発注すればよいでしょうか?
この組織における過去3年の既存店Tシャツの23週から34週までの売上推移は、以下の図の通りです(*過去データを使用する際は、必ず既存店のデータを使いましょう)。
ちなみに、MD講義で受講者の方から『過去データは売上金額ではなく売上点数を使用してはいけないのでしょうか?』という質問を受けることがあります。点数を使用することが必ずしも間違いというわけではありませんが、個人的には金額を使用した方が柔軟性が高いと感じているため、金額を使用しています。話を戻しまして、上記の図は、23週を1とした場合の24週以降の売上指数を示しています。今回の例では、追加商品入荷週の29週は23週の1.43倍の売上があることになります。つまり、23週の売上実績が27点であるため、29週の売上予測数は27点の1.43倍で39点となります。この計算を繰り返し、34週までの売上・在庫予測数を表にまとめたものが以下です。
上記の表から、商品の入荷週前に売り切れが生じているため、入荷週である29週から34週までの売上予測数186点を追加発注する必要があります。以上が、一般的な商品の追加発注シミュレーションです。
次に、セール販売を加味した商品の追加発注シミュレーションについて考えてみましょう。上述の例題をそのままに、商品Aを30週から30%OFFで販売すると決定した場合、追加発注数はどうなるでしょうか?セール販売を加味した場合も、基本的な追加発注の考え方は変わりませんが、30週以降の30%OFF時の売上予測数をどのように算出するかが、この例題を解く鍵となります。セール販売を加味しない場合の30週の売上予測数は、上記の表から42点でした。今回は30週以降、30%OFFで販売するということになってますので、30%OFFで販売した場合の売上予測数の計算は以下の通りです。
→42点÷(1-30%)≒61点(30%OFFした場合の30週の売上予測数)
となります。この計算を30週から34週まで繰り返した結果を、以下の表に示します。
前回同様、29週以降の売上予測数を発注すればよいため、29週から34週までの売上予測数249点を追加発注する必要があります。セール販売を加味しているわけですから、発注数量が増えるのは、当然のことですね。
次は売上規模が小さい組織の追加発注の考え方です。売上規模が小さい場合でも、基本的な商品の追加発注方法は変わりません。ただし、売上規模が小さい組織では、過去データの信頼性が売上規模が大きい組織と比べて低い傾向があります。その際の注意点を以下の記事にまとめていますので、詳細についてはそちらをご覧ください。
次に、年間を通して販売している通年商品の追加発注について説明します。通年商品の追加発注に関する基本的な考え方は、これまでお伝えした内容と変わりません。ただし、通年商品の追加発注で重要なことは、商品の追加発注を行うタイミングです。例えば、リードタイム(LT)が2~3日であれば、仕入先と売上情報を共有し、自動で商品が補充される仕組みを構築すればよく、商品の追加発注のシミュレーションを行う必要はありません。
しかしながら、アパレル小売のリードタイムは、現状3か月前後が一般的です。したがって、アパレル小売における通年商品の追加発注は、リードタイムが在庫消化日数とほぼ等しくなったタイミングで行う必要があります。追加発注のタイミングが早すぎると、在庫回転率の悪化を招き、遅すぎると販売機会の損失につながり、売上・粗利益の減少を招きます。つまり、MDは常にリードタイムと在庫消化日数を注視する必要があるということです。
今回の記事は、弊社の業務備忘録的な内容ではありますが、冒頭で述べたように、商品の追加発注の精度を高めることは、組織の業績向上につながります。今回の記事が、アパレル業界に関わる皆様の業務向上の一助となれば幸いです。また、今回お伝えしました内容は、弊社が執り行うMD講義にて、更に詳しい内容をお伝えしていますので、ご興味のある企業・組織の方は、以下のリンクから概要をご確認ください。
【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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