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昨今、このアパレル小売り業界でも、DX等のデジタル化が急務である!ということが言われています。実際、ECや販売の現場からのSNSの連携等、様々な形でアパレル小売業界でもデジタル化は進んでおり、最早デジタルツールは欠かせないものとなりました。
また、上場企業の決算資料を読むと、デジタルツール関連に多額の投資を行う!と記載してある企業も多くあります。しかしながら、コロナ禍の影響もあり、アパレル小売の中小企業がデジタルツールに多大な投資を行うのは難しく、今後アパレル小売業界の大手企業と中小企業の間では、デジタル関連の格差が、ますます拡がってくるのは間違いありません。
更に、私が生業とするマーチャンダイジング(以下MD)に関するデジタルツールも、AI等のMDの数字関連の仕事を解決しようとするものや、トレンド分析等のMDの商品面の仕事を円滑に行えるようなデジタルツール等が出てきています。
これらMD関連のデジタルツールに関しての、私の見解を先に述べますと。
MDの仕事におけるデジタルツールの活用には大賛成の立場です。
そのことで、MDの仕事の負担。とくに数字面の仕事の負担が軽減されれば、お客様に対しての”適品”を品揃えする!という仕事に時間を割くことが出来ます。
しかしながら、前述したように大手企業であればいざ知らず、アパレル小売の多くを占める中小企業が、MDに関するデジタルツールへの投資を急ぐべきか?と申しますと、私は全くその必要はない!と断言します。寧ろ、導入に慎重になるべきだと考えています。
では、何故アパレル小売の中小企業は、MDに関するデジタルツール導入を急ぐべきではないのか?と理由を、MDの数字面と商品面の仕事の両方から述べていきます。
まずは、MDの数字面から理由を述べていきます。MDの数字面の仕事での最大の問題点は、プロパー消化率に代表されるMDの業務には必要がなく、無駄でしかない間違った指標を多く使っていることが問題です。その結果、MDに関する数字の仕事の負担が増えるだけでなく、虫眼鏡で見ないとわからないような管理会計帳票が出来上がります。そして、最終的には担当者しか数字を見なくなる。しかも、組織自体が更におかしなローカルルールを導入し、煙にまいたような資料が出来ることで、組織の誰もMDの数字面の現状を具体的に把握出来ていない。これが問題です。
このことを解決するには、このブログや他の連載でも私が述べているように、会計学を基本としたMDが基礎数字を、会社として導入・教育すべきです。まず、このことが大事です。
次に必要なのは、商品管理ルールの見直しです。
できれば、大分類→中分類(特に大事)→小分類等の役割を明確にし、自分たちのブランド・ショップのお客様の消費動向を具体的に分析を出来るような、適品に関する商品管理ルールの再設定を行うと良いでしょう。また、適時に関するルール設定の再確認も重要です。組織で使っている季節区分・コード等が定義づけされておらず、MD・バイヤーの個人の主観で勝手に使われているとしたら、MDにとって重要な過去データの分析の精度が思いっきり下がります。また、季節区分と商品の販売終了日を紐づけておくということは、在庫過多を防ぐためにも重要になります。
これらの商品管理がしっかりしておけば、古いPOSシステムでもお客様の消費動向を示す過去データを具体的に分析することが出来、次期の商品計画の仕事に活用することが出来ます。更に、精度の高い不振在庫の炙り出しや商品を追加する際に行う売上シミュレーションが出来ます。これは、現在の仕事を7年以上行ってきた弊社の見解になりますので、間違いありません。大事なのは、デジタルツールの精度ではなく、自分たちの組織が取ろうとするデータの中身であり質です。ですが、データをExcel化出来ないシステムに関しては、精度の高い過去データ分析を行うことが、かなり難しくなるのは事実です。
そして、もう一つ大事なことは、得られた様々なデータを正しく活用できる人材の育成が重要です。これは、進化したデジタルツールを導入しても同じことです。現場(店頭)とデータを結び付けて考え、演繹的な思考で先の商品計画に活用することが出来る人材を育成を行うべきでしょう。
次は、MDの商品面に関する仕事に関してです。
私は、MDの商品面の仕事の手段は自由であってよい!と考えています。
確かに、デジタルツールの進化によってトレンド情報等が得られることは良いことである!とは思います。ですが、MDの商品面の仕事に関することは、ある意味その組織の長所であり、それこそ独自性があって良いものです。ですので、無理にデジタルツールを活用することには疑問を感じます。
特に、商品展開MAP等などは、デジタルツールを使用することによる不利益さえ生じる可能性があります。商品の展開MAPを作成する目的は、(ある期間内)の適品・適時・適量を可視化し、先の店頭での商品の見え方・戦略を可視化することが目的です。更に言えば、MDが商品展開MAPを俯瞰して見られる状態にしておくことでMD自身が、そして、当事者であるMD以外の他者にも見てもらうことによって、先の商品戦略のおかしな点・不備に早く気付くことが出来るようにする!ことです。(個人的には、MDの商品面の仕事に関してはアナログ仕事の方が断然魅力があると思っています。)そのように考えると、ノートPCやタブレットの大きさで、商品展開MAPをかっこよく作成しても、見る範囲が狭くなったり、商品の見え方が小さくなることで、先述した目的を達成出来なくなる可能性も高まります。ですので、MDの商品面のデジタルツールを導入する際には、先に自分たちの商品面の長所を客観的に捉えた上で、導入することをオススメします。
最後に、デジタルツールを導入することで利便性が高まり、業務の負担が軽減されたり、これまで出来なかったことができるようになる!ということは、アパレル小売業界によって良いことだと思います。
ですが、デジタルツールというものは、仕事の目的ではなく、仕事の目的を達する手段の一つでしかありません。ですので、世間の風潮に流され焦って、多額の投資をデジタルツール導入に費やす前に、まずは自分たちの現状を具体的に捉えた上で、デジタルツールに関する投資を考えて貰えればと願っています。”隣の芝生は青く見える”的な発想で、デジタルツールを早急に導入しても、それは”豚に真珠”で多額な金額をドブに捨てることに繋がりかねません。今回の記事が、皆様方の何かしらのお役に立てば嬉しく存じます。
【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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