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2021年に入っても、コロナ禍による緊急事態宣言の発令で休業を余儀なくされ等、外的要因によるアパレル小売の売上減少に歯止めがかかりません。当然のことながら、売上減少による仕入減少も避けられないということになります。ここ最近のアパレル小売に関する記事を見ても、上記のようなことをよく目にします。ですが、その仕入削減関連の記事を読んでいると、MD・バイヤーの発言で?ということがよくあります。それは、どのようなことかと言いますと、以下のような発言です。
”仕入予算が減っていながら昨対ベースの売上予算はキープしないといけない状況で、その組み立てにはかなり熟考しました”
この発言の意味をそのままに受け取ると、簡単に言えば殆どセールせずに商品を売れ!という、プロパー消化率という言葉が、大好物な人が喜ぶような状態になります。確かに、このこと自体はMD的に捉えると喜ばしいことではありますが、このことは本当に可能なの?また、発言したバイヤーはこの言葉がもたらす意味を本当に理解しているの?という疑問が湧いてきます。
特に疑問に感じることを以下箇条書きしますと。
①このケースの場合の仕入予算の設計は、値入率と粗利率の差が殆どない状態で組まねばならないこと。
②予算という言葉と先の見通し・予測という言葉の定義が組織でなされていないのでは?ということ。
このことです。
まずは、①を考えてみます。
私の他の連載でも常々言っていることですが、仕入の基本は?”売れる分だけ仕入れる!”このことになります。
また、仕入予算の考え方は、売上だけでなく粗利のターゲットが必要になります。売上・粗利ターゲットから算出された売上原価を仕入原価とイコールにさせる!というのが基本的な考え方です。ですが、値入率のターゲットを決め、粗利率ターゲットと差をつけることで、売上予算以上の仕入元売価予算設定が可能となり、その差額分が余剰仕入分となります。
このことから上記のMD・バイヤーの発言を額面通りに捉えると、値入率と粗利率の差は殆どない設定にし、余剰仕入を削り、プロパー消化を高める!ということになります。サステナビリティの観点から捉えれば、このことは一見好ましいことに感じますが、過去の実績を検証した場合、達成したことのない値入率と粗利率の差で、仕入予算を設計してあるのであれば、売上予算を達成するのは、ほぼ不可能である!と断言することが出来ます。これまで、ある程度のセールを行ってきて売上予算を達成していた組織が、急に商品発注の精度が上がる!等ということは考えられず、余剰仕入分を減らせば、その分だけ売上予算を下回るのは間違いありません。
次は、②のことを考えてみます。
上述したMD・バイヤーの発言を、私のこれまでの経験を基に考えてみると。
予算と見込・予測のことが、組織で言葉の定義されておらず、意味がごっちゃになっているのでは??
と推測されます。
予算の基本的な考え方として、予算は組織の損益計算書をベースに、売上・粗利・仕入・在庫予算というのは、設計すべきものであり、退店等のイレギュラーがない限りは、予算は変えてよいものではありません。このことから考えると、上記の発言は、売上予算がキープで仕入予算はダウンに変更した!ということになりますから、なんだか辻褄が合いません。
おそらく、上記の発言をしたMD・バイヤーの組織は、予算の定義が組織として周知されておらず、予算は変更して良いものとして捉えているように感じます。これも私が常々言っていることですが、変えてよいのは予算ではなく、先の見通し・予測です。
以下、架空の下記の組織を例とし、実際にMDの実務で起こることを例として記載します。
・2月末決算
・都心型レディースアパレル
・リードタイムが2か月
・商材は春夏商品
上記の組織の場合、都心型レディースアパレルになりますから、2月末決算(2月28日)の時点では、新年度の春夏商品で店頭が埋まっている(在庫もほぼ春夏商品)のが理想です。このような組織は、12月くらいから春商品の仕入が始まりますから、発注は前期の10月に商品を発注しなければならない!ということになります。
このような組織の場合、本格的に春商品の動向が見えてくるのが、1月末から2月に入ってからになりますから、最低でも2月までの仕入の分は、仕入予算通りに発注しないと売上予算を達成することは出来ません。また、期が変わる3月に入荷させる商品は、前期の1月発注になりますから、そんなに春商品の動きがわからない状態で、仕入予算以下の商品発注にするわけにはいかず、仕入予算通りに発注しなければならない!ということです。
このことは、コロナ禍によって、2020年3・4月にアパレル小売に起きたことを考えて頂ければわかると思います。
例に挙げた上記の組織で言えば、3月に入ってから、この先の売上がダウンする!ということが明確になるわけですから、MDは3月以降の売上予測を下げます。しかしながら、3・4の仕入発注分は削れません。このケースでは、3月に発注する商品は、5月に納品になりますから、5月発注分は、売上予測だけでなく、在庫消化を加味し粗利率を予算以下に下げ、在庫の着地を見ながら仕入を削らなければならない!ということになります。
このときに、皆様方に注意してほしいのが、上記の5月分の仕入を削減することは、”仕入予算を削減することではない!”ということです。
MD予算は、前述したように損益計算書が基になっており、基本的には変更してはいけない!ものです。また、MD予算の数字の推移は、自分たちの今期のMD設計の”意志”と”行動する為の仮説”を数字として表現したもので、自分たちの意志を”測定”することのできる目安となります。ですから、予算そのものを変更してしまうと、自分たちのショップ・ブランドが当初に考えていた行動する為の仮説を表現した数字と、どれくらいズレていたのか?ということを具体的に測定できないようになります。測定可能な目安を喪失することで、更なる在庫増加を招いたり、必要な仕入をせずに更なる売上低下を招く等の弊害が多発するということになります。
このようなことにならないようにする為に、組織として売上・仕入を含めた予算の定義。そして、当初のMD予算設計が、自分たちの次期に実践したい商品計画の”意志”と”行動する為の仮説”を表現することで、期中のMD活動におかる、具体的で測定可能な目安となる重要なものである!という認識を、MD・バイヤーの皆様方に持って頂ければ幸いです。これで今回のブログは終了です。
【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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