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先日、ECディレクターの深地さんが弊社サイトで、以下の記事をアップ致しました。
深地さんが上記の記事でも言及されているように、一部の情報だけを切り取り、アパレル小売業界で、プロパーの気運が高まっているような雰囲気を感じさせるのは、メディアとして早計ではないのか?というのは、私も同感です。一方で深地さんは、大前提として「プロパーで売る」事が優先されるのは大賛成なのですがとも言及されています。このことに関しても、私も全く同じ考えです。
ぶっちゃけて言いますと、勢いのある有名人やインフルエンサー等を起用し、ブランドを立ち上げ、受注販売中心の商売を行えば、セールなしの完全消化のブランドを運営できる可能性は高いといえます。事実、年末年始にそのようなブランドを運営されている方々から、お話を伺いました(MDを学びたいという依頼から話を機会があった)。個人的には、現状の状態を長く永続できるのらば、MDに関する知識も必要ないと思うのですが、しかしながら、そのようなブランドは、ブランドに対する支持ではなく、個人に対する支持になりますから、その有名人の人気に左右されますし、店舗を複数店運営し事業拡大というわけにはいきません。ブランド運営の基盤を確立、一定以上の事業規模を目指すのらば、セール・値下げという行為を否定するのはデメリットしかないのが、紛れもない事実であり、それこそサステナビリティもへったくれもありません。ということで、今回は仮にセールを全くしない組織があったと仮定し、そのことを持続するとどのようなことが起こるのかを?を、以下考えてみます。
今回例にあげるセールを全く行わない架空の組織の設定は以下の通りです。
【全くセールをしないレディースブランドA】
・年間売上20億円。(EC売上構成比50%・実店舗売上50%)
・値入率65%(原価率35%) 粗利率64%(基本セールをしていない。ロスやその他身内の割引ロス等が発生)
・昨年度の商品の消化率は90%
以上のような組織があったとします。
先ずは、上記の組織が1年でどのくらいの商品を残したのか?を考えてみましょう。因みに、絶対にセールをしないブランドを明文化するのであれば、上記のケースの仕入元売価予算は、基本20億円で組むべきです。しかしながら、20億円の売上予算を掲げ、20億円の仕入元売価予算を組んだ場合、間違いなく売上予算の達することはない!と、この業界でお仕事をされているのらば、感覚で理解できることでしょう。話を戻しまして、どのくらいの商品が余ったのか?を計算してみましょう!
→20億円×(1‐64%)=7.2億円(売上原価)
→7.2億円(売上原価)÷90%(消化率)=8億円(実際の仕入原価)
→8億円-7.2億円=8000万円(残った在庫原価)
となります。因みに残した在庫原価を元売価換算すると?
→8000万円÷35%(原価率)≒2.29億円(残った在庫元売価)
となります。消化率90%でも、そこそこの金額となってしまいます。
ということで、今回は全くセールしないブランドという設定ですから、翌年の計画を考えてみましょう!売上・粗利予算は、当年と同じ設定。そして、今回も年度の消化率を90%と設定して計画を組みます。そして、仕入予算の設定です。仕入予算は前述した数字をみると、売上原価分7.2億円と残る在庫8000万円を足して、8億円ということになります。しかしながら、前期の未消化分の8000万円が持越し在庫として存在しますから、実質の仕入原価予算は7.2億円となります。また、今回は上記の設定にレディースブランドとの記載があります。レディースブランドは、皆さんもご存知の通り、商品に旬が存在しますから、この在庫が足枷となる可能性は大です。今回のケースでは、持越し在庫を店頭に展開し続けることになりますから、新規商品の予算枠が減ります。このことで来期の売上予算を達成することが難しくなる上に、セールという在庫消化の手段が使えませんから、大きい金額の在庫が余る可能性が高まります。このことが繰り返されれば、売上は更にじり貧になり、在庫が増大することでしょう。消化率90%でも、セール行わない状態を続ければ、このようなことが起こる可能性が大ということです。
次は、通常のお客様から見えないところで残した在庫を消化する施策を考えてみましょう。それは、ファミリーセールです。上述した深地さんの記事にも以下の記載がありました。
エルメスもグッチもディオールもみんな独自にファミリーセールやってるんですけどね。
店頭やECでも値下げした商品を売り場におきたくない場合は、身内?で行うファミリーセールが有効となります。ということで、上述した架空のブランドは、8000万円の在庫を残しています。仮に、この架空の組織がOFF率50%でファミリーセールを行った場合(通常のファミリーセールはもっとOFF率が高い)、以下の売上・粗利予算になります。値入率65%の商品がOFF率50%で売れると粗利率は30%になります。(OFF率の計算方法は私の過去連載をご覧くださいm(__)m)残した在庫が8000万円で粗利率30%設定の場合、ファミリーセールの売上予算はいくらになるのか?といいますと。
→8000万円(残在庫)÷(1-30%)≒1.14億円(ファミリーセールの売上予算)
となります。仮に年2回のファミリーセールを予定している場合は、ファミリーセール1回あたり5500万円以上の売上予算が必要となります。年間の売上規模が20億円ともなると、かなりの大規模なファミリーセールが必要ということになりますね。仮に売上規模が上記の例の10分の1の2億円だとしても、一度のファミリーセールで550万円以上の売上が担保しなければならない!ということです。
セールせずに商品を売る!セールしないブランドを目指す!ということに、何の異論もありません。MD的にみれば、セールせずに商品を売り切る為には、MDの5適でいう”適品”が重要となります。同時に商品を必要以上に発注しない!“適量”の精度を高めるのも重要です。更に言えば、商品そのものの”付加価値”を高める工夫が必要となります。そのことがあくまで大前提です。
しかしながら同時に、セールをしない!ブランドを目指す為には、商品そのものの力を高めると同時に、事前の準備・計画、私が常々よく口にしている前始末を行うことが重要です。特に、私が今日の記事で行ったような数字計画は、必要最低限のものとして準備しておく必要があるでしょう!セールを抑制する為には、メディアや有識者?が広める上っ面の「プロパーの気運高まる」的な風潮に踊らされるのではなく、組織として行うべき前始末を具体的に行う!このことこそが必要なことではないでしょうか?今回の記事が多くの読者の皆様方のお役に立てれば嬉しく存じます。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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