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大手アパレル上場企業・EC状況まとめ

毎年恒例で大手アパレル上場企業の決算状況を複数社まとめておりますが、

TOKYO BASE EC売上推移(25年1月期通期)

2025年2月期 しまむらEC売上推移

オンワード・アダストリアEC売上推移(2025年2月期)

バロックジャパン・TSI HD EC売上推移(2025年2月期)

三陽商会・ユナイテッドアローズ EC売上推移(2025年2月期)

先週までで8社の状況を確認しました。まだ数社、チェックする企業はあるのですが、いくつか傾向出てきたと感じておりますのでここで各社の傾向をまとめておきたいと思います。

■数字が下がりやすかった時期

2024年にて各社特に数字が下がりやすかったのは気温が全く下がらなかった10月と、セール時期の年明け1,2月でしょうか。前者は文字通り、気温が高すぎるせいで秋物が動かずでしたが、11月の末付近で気温が一気に低下し、アウター販売が良好に推移。その結果、在庫をある程度絞っていたブランドはセール時期の在庫が足らず、結果年明けから数字を落としやすかったという状況ですね。これに関しては月次速報を見れば似通っているのがすぐわかると思います。

■EC売上は明暗分かれる

筆者の専門分野であるECはどうか?ということですが、これも毎年共通ですが明暗はくっきり別れています。上記の企業名で言いますと、

好調:しまむら・オンワード・アダストリア・ユナイテッドアローズ

堅調:バロックジャパン・三陽商会

低調:TSI・TOKYO BASE

という状況でしょうか。しまむらに関してはECを始めたばかりなので伸び代しかないでしょう。

ではその他の企業の好調の要因は何だったのか?を雑にわかりやすく書きますと、

■EC売上と最も相関があるのは店舗の純増数

やはり「店舗が増えているかどうか?」は傾向としてありました。現在の市況はインバウンド含め店頭回帰がトレンドです。基本的には成長ブランドでの出店が多くなりがちですが、24年は既存店での出店もやや目立ったように思います。単純に店舗が増えるとEC売上が伸びる、という事ではなく、

成長ブランド=出店が積極的

というのが一番の理由でしょう。また、大手アパレルは当然ながらマルチブランド戦略なので、規模感のあるブランドが不振且つ、成長ブランドの規模が小さすぎる場合は全体の業績を押し上げるまで至りません。なので、既存店は維持・微増しつつ成長ブランドでインパクトを出している企業の業績が目立っている状況と推察します。

また、ブランドが拡大していく中で、EC売上も合わせて大きく伸ばそうとすると在庫過多になりやすいので注意が必要ですね。PLは良くても在庫の増え方が尋常じゃ無い企業も一部散見されました。

■モールは値引き抑制から鈍化の傾向が一部あり

「EC売上がここ数年低調」という企業の一つの要因として、他社モールの売上減少が挙げられます。

理由としては、他社モールの販売促進は主にクーポン・セールのような値引き施策に偏重しやすく、それが要因で粗利が削られやすい傾向にあります。また、他社モールでは限定アイテムを多く作らないとトップラインが伸びにくく、にも関わらずヒット率が自社ECより低いので在庫が非常に増えやすいのです。アウトレットで販売すれば在庫消化は可能ですが、値引き前提で手間をかけて多くの商品を流通させるより、流通量は減っても粗利を確保しつつ手間をかけない手法にシフトしているという事ですね。

原価率を低めに設定して超低価格、且つマイクロインフルエンサーで拡散して販売促進。賞味期限が切れたらすぐやめて新しいブランドを供給、というやり方なら値引き施策に偏重しても問題ありませんが、ブランドを中長期で継続して運営するなら他社モールでも値引きに偏重するのは悪手なのかもしれません。

■ECの取り組みに売上インパクトがあるか?は注意が必要

一部の企業ではECの取り組みが要因で業績が好調に推移した、との報道もありましたが、これは個人的な所感では本質ではないと考えます。もちろん貢献度は多少あると思いますが、ブランドが成長していないのにECの力で売上を押し上げられるか?と言われると、これははっきり「NO」と言えます。それは上記の堅調・低調に分類した企業の業績を見ればよくわかります。

これらの企業は成長ブランドがまだ小さいか非常に少ない(もしくは0)な為、出店が退店を上回ることがなく、店舗数は純減しています。それでEC売上が、「大きく成長」「業績への貢献度が高い」か?と言われますと、良くて昨対トントンでほぼ横ばいです。知名度が比較的高い既存ブランドで店舗数を減らして、ECにシフトしようとしている状況も散見されましたが大幅な増加に至っていません。(もっと劇的に店舗を減らせばEC「だけ」は大きく伸びるかもしれませんが。)

毎度当たり前のお話をしますが、結局成長ブランドの数・規模感無くして、EC売上は大きく伸びませんし、ECはブランドを実力通り売る為の販路なので、ECの取り組みだけで全体の業績を押し上げることはないのです。

販売員のコーディネート経由で◯◯億円、が本当に正しい貢献度だとするなら、理論上コーディネートを増やせば増やすほどトップラインは伸びていきますが、そんなことには絶対ならないのと同じですね。コーディネートを経由する前に、そのユーザーはどこからやってきたのか?のお話が抜け落ちていますからね…。

■自社ECモールのプラットフォーム化は何故必要か?

また、最近数社が取り組んでいる自社ECのプラットフォーム化、つまり他社製品を自社ECモールで販売する施策ですが、何故これをやらなければならないか?について、筆者の推測を書いておきます。

コロナ以降、大手アパレルのEC売上は劇的に数字が伸びることがなくなり、冒頭でも記載した通り店頭回帰が進んでいます。また、成長ブランドがないとEC自体がなかなか売上が上がらないのも明白な中、それらも頭打ちになってきた感があります。

開発をスピーディーにやろうとしても、大手アパレルくらい図体が大きいと、それなりに売上インパクトのあるブランドでないと企画は通らないですが、マスに向けたブランドは既に市場にもたくさんありますし、新しいブランドは開発が間に合いません。そこに成長ブランドが頭打ち、店頭回帰となってきますと、そんな中でEC売上を右肩上がりに伸ばす方法が、ECプラットフォーム化しかないから。という理由ではないかと考えております。

 

大手アパレル上場企業の直近のまとめを書いてみましたが、昨年や一昨年との大きな違いは「成長ブランドの頭打ち」を強く感じた点でしょうか。で、開発サボっているか?と思いきや、そうでもないんですよ。(バロックジャパン以外)しれっと無くなっているブランドもあるので(俺じゃなきゃ見落としちゃうね。)、業績を左右する要因は何か?は普段からニュースウォッチと店頭リサーチ、月次速報と決算書などを確認して見落とさないようご注意ください。

 

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