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(特別記事2)決算書からみるMD戦略変更の難しさ

★以前書いた記事の検証を試みる?

現在、私は以前書いた決算書類から各社の今後の仕入見通しを考察してみたという記事の検証記事を書く準備をしています。理由は、年初にこの業界の識者やコンサル等が”202〇年の業界予測!”等の記事を書いているのをよく見かけるのですが、その予測が大ハズレしても、一切何の言及もしない!というのが、その理由です(笑)

(特別記事)決算書類から各社の今後の仕入見通しを考察してみた


ということで、地道にコツコツと決算書を読んで、検証記事を書く準備をしているのですが、上期(第2四半期まで)の結果は出ていますので、上期時点での数字を基に、私が気づいたこと・感じたことを、今回記事にしていきます。

先の記事で考察した組織は下記の通りです。

・しまむら
・TSIホールディングス(以下TSI)
・ユナイテッドアローズ(以下UA)

今回のコロナ禍の影響で、特に都心中心に出店している、TSIとUAの業績は大きく下がり、郊外型のしまむらの業績はさほど下がらなかった!というのは、皆さんも周知している筈です。しかしながら、3社の数字を調べていると気になる点が多くありましたので、以下考察していきます。

★決算書の数字から見えるMDの精度とは?

今回、私はMD視点で色んな角度から、各社の数字を考察してみました。

以下の数字は、上期までの、各企業の売上高・粗利高・仕入高・在庫高の前年比となります。下記の数字をご覧くださいm(__)m

売上高 →しまむら96.2% TSI 68.8% UA 71.4%
粗利高 →しまむら96.5% TSI 55.0% UA 59.4%
仕入高 →しまむら93.8% TSI 84.2% UA 80.2%
在庫高 →しまむら94.6% TSI 94.9% UA 102.9%

この数字から一目で理解できることは、しまむらの圧倒的な数字の良さです。

中でも着目すべきは、売上以上に粗利高を確保しているという点です。事実、第2四半期に区切って言えば、前年比売上112.6%。粗利高116.3%。更に、粗利率は35.5%で、前年同時期よりも1.1ポイントもアップしているのです。通常、粗利率が高まると在庫が増えやすくなります。その理由としては、セールを通常よりも抑制している可能性が高く、その分在庫消化が促進出来ない。というのが理由です。しかしながら、上記のしまむらの数字を見てみると、上期時点で在庫が前年の94.6%となっております。94.6%という数字だけみると、ピンとこないかもしれませんが、前年同時期よりも約27億円減っています。これは、経営的に見ても大きいことで、キャッシュフローに好影響をもたらします。

仕入・値引きを抑制しながら、売上・粗利を水準以上に確保した。これは、MD視点でみても簡単ではありません。”しまむらは郊外型だから、コロナ禍の影響少なくて良いよね!”という、短絡的な見方をしても、物事の本質を捉えることは出来ません。しまむらは、このコロナ禍の中で、相当な企業努力をしたと言えるでしょう。

次は、TSIです。
この数字から一目できることは、コロナ禍の影響による、売上の低下が顕著。更に言えば、粗利の低下が顕著だということがわかります。これは、上期時点での在庫が前年の94.9%に着地しているということからも、セールによる在庫消化を躍起になって行った結果と言えます。ですが、前回の記事で触れたように、このAW商戦は、仕入を大幅に削減してる筈ですから、8月末の上期時点在庫のAW比率が低下してる筈で、死に在庫は例年よりも多く含まれている可能性があります。

最後にUAです。
数字の配列的には、同じ都心型であるTSIと似たような状況となっています。しかしながら、上期時点での在庫が前年の102.9%となっており(前年同時期よりも約8億円の増)、想像以上にコロナ禍の影響によって、在庫を残してしまったというのが、数字から見て取れます。しかも、UAの在庫過多問題は、コロナ禍以前より言われていることです。更に決算書を確認すると、この上期で、在庫の評価減・廃棄が粗利に与えた影響は1.4ポイントと記載されていましたから、UAの在庫過多問題は深刻と捉えてよさそうです。特に、手元の現金が少ないと言われ、経営的な課題としてキャッシュフローの改善が掲げられる中での、今回の在庫増は、組織としてもイタイことこの上ないでしょう。(因みにUAは、今期に約130億円の短期借入を行っている)

 

★TSIとUAが掲げているMD改善策とは?

このような状況の中。当然のことながら、TSIもUAも、中期経営計画でMD戦略の見直しを掲げているのですが、どのような施策を掲げているのかと言いますと?

●TSI

・プロパービジネス化
・プロパー消化率の改善 →セール前提ではないブラン ディングとビジネスモデルの構築

という改善策を掲げています。更にその施策として。MD戦略と仕入計画の改善(必要な量しか作らない!と文言にある)ということを掲げ、目標数値としてプロパー消化率80%を掲げています。

私は、このブログでも何度も言及しているように、定義が定まらないプロパー消化率等という指標は、MDの数字面の仕事では、全く役に立ちません。このことだけでも、TSIの先行きが不安になりますし、上層部のMDに対する無理解が見て取れます。しかも、TSIは色んな組織の集合体ですから、ホールディングス側が掲げる改善策を、各社が納得して受け入れるとも思えないので、更に雲行きが怪しくなります。しかし、決算書を詳しく読んでみると、この先、1社に統合することを考えているようです。これは朗報と言えるかもしれません。(但し、各社・ショップ・ブランドの長所をぶち壊すことにならなければ良いが。。。)

●UA


・在庫効率向上による売上総利益(粗利)率の改善
→在庫改善プロジェクトを通じたあるべき在庫の持ち方を検討し、売上総利益率を改善

このことを掲げています。しかしながら、粗利率が高まれば、在庫が増えやすい側面がある!ということは、先にも述べました。この組織の上層部は、本当に在庫回転・粗利が持つ数字の特徴をよく理解できた上で、このような目標を掲げているのか?と。不安を感じざるえません。このような目標で、この先、社員全員が一体となって取り組まねばならない在庫改善プロジェクトが、本当に機能するのか?甚だ疑問です。

 

★考えられるMD戦略の改善案は?

では、MD戦略の見直しに際して、TSIやUAがとることのできる改善策というのは、何のなのか?ということを私なりに考察してみると。。。下記のことが考えられます。

❶ QR(クイックレスポンス)対応
❷ セールの仕組みを変える
❸ MD予算設計(仕入計画)と期中対応の強化

この3つとなります。では、以下それぞれに述べていきます。

 

❶ QR(クイックレスポンス)対応

今回のコロナ禍において浮き彫りになった、アパレル小売に最大の問題は、売上の低下の分だけ、仕入が削減出来ない!という点です。上期の結果は、TSIは売上が前年の68.8%に対して、仕入の前年が84.2%。UAは売上が71.4%に対して、仕入が80.0%となっています。(第1四半期では、売上が更に低く、仕入の前年が高止まりしていた)このような数字の出方は、第1四半期で限ってみれば、しまむらも似た状態でした。これでは、在庫が増えるのは避けられません。

このような結果となる最大の要因は、リードタイムが長い!(以下LT)ということに尽きるでしょう。

このことを簡単に説明しますと、今回のコロナ禍が本格的になった3・4月に売る商品の発注は、前年の11・12月の段階で商品を発注しているということです。更に言えば、旧正月の影響で、もっと発注タイミングが早かったでしょう。(この頃に誰も今回のコロナ禍など予測できない)今年の3月~5月は、アパレル小売業の多くの組織は、前年の半分前後しか売れなかったわけですから、在庫が残るのも当然です。その結果として、QR(クイックレスポンス)が、また最近になって、盛んに言われるようになりました。

今回、しまむらの決算書を読むと、このコロナ禍の状況の中で、短期生産の活用がうまくいった!という文言が書かれていました。


しまむらの仕入体系は、メーカー仕入が主たるものなりますから、それら仕入先メーカーとの取りくみが上手くいったということになるのでしょう。しかも、粗利率から見てとれるように、しまむらはメーカーからかなり高い掛率(仕入原価率)で商品を仕入れていると推測されますから(決算書の粗利率と値引率から、掛率を推測すると、主力のしまむら事業は60%以上。ただ値下率の定義がいまいちわからない)、仕入先メーカーと常日頃から良好な関係を築いているのかもしれません。

しかしながら、このQRは以前からも言われていますが、TSIやUAを含めたアパレル小売業の多くの組織に、本当にこのことが可能でしょうか?また、小売りが商品供給側の要望に応え、商品の仕入原価が上がることに対して、”イエス”と言えるでしょうか?そのようなことは、まず難しいと言わざるえません。ですから、QR対応の強化という目標は、”絵に描いた餅”にしかならないでしょう。

 

❷ セールの仕組みを変える

しまむらの在庫回転日数は、現状の決算書の数字で判断すると、凡そ2か月を切っていると推測されます。最盛期で45日くらいでしたから、このコロナ禍の状況で、粗利を改善しながら、その数字に近いところまで改善してきているというのは、凄いことです。(一昨年。昨年あたりは、商品が良くなく在庫回転日数が悪化、このMDモデルが破綻しかけてたが。)

また、しまむらの場合は、常に店頭にセール商品を置くことをいとわず、販売期間が過ぎて在庫が残っている場合は、自動的にセールになるような仕組みを確立し、在庫が回転するよう意識していると推測されます。これは、UNIQLOやZARAも同様でしょう。これらの組織は、こうした施策を取ることで、在庫過多に陥ることを防ぎながら、必要最低限の売価変更に抑え、目標の粗利を確保を目指しています。(しまむらの決算書に記載された、主力のしまむら事業の値引率は、この上期で10%以下。先述したが、この値下率がOFF率とイコールなのかは不明)

在庫回転日数や在庫回転率の適正数値は、各組織それぞれに違いはありますが、TSIやUAのショップコンセプトや、出店戦略を考えると、各自のブランド・ショップが持ちうる付加価値やディベロッパーのスケジュールに左右される中で、上記のような施策がすぐにとることが出来るのか?というと、これも難しいといわざるえません。

 

❸ MD予算設計(仕入計画)と期中対応の強化

先の2つの施策よりも効果が低くなりますが、TSIとUAがとることのできる施策は、おそらくこれしかありません。事実、TSIもUAも仕入計画の改善や在庫改善等と似たような目標を掲げています。

しかしながら、先述しましたが、TSIやUAの上層部はMDの理解に乏しいように感じます。特に期初におけるオーバー仕入は、コロナ禍の以前から問題である!と、決算書の数字の推移から感じます。ですから、まず実践すべきことは。。。

・正しいMD数字の見方を知ること。実務者に教育すること。
・正しい数字の並べ方で組織の現状を可視化すること。
・自分たちのショップ・ブランドの特徴を可視化・スケジュール化すること。
・上記のことから、自分たちにとっての適正な在庫基準を作ること。
・仕入予算の正しい知識を得ること。
・(商品の)追加枠・予算の設計を予め行っておくこと。
・残在庫の処理方法を組織全体でルールをきめておくこと。→ややこしいルールは排除!
・期中での対応のスピードを上げること。

等以外にも考えられますが、MD戦略の改善ですべきことを具体的に定めた上で順序を決め、改善を迅速に実践すべきです。

更に一番大事なことは、”顧客が欲しがる商品を品揃えする!”という、ごくごくMDでは当たり前の基本を意識すべきです。TSIやUAが掲げている、粗利率の改善というのは、顧客から見た”付加価値”を高める!ということが重要になります。ですから、商品を作る・発注する際に、常に”顧客からみた付加価値”ということを意識する!このことを組織として徹底すべきでしょう。

 

★テクノロジーが問題を解決するわけではない!

最後に、MD戦略の見直しや在庫改善において、一番してはいけないことは、”(デジタル推進等の)テクノロジーを導入すれば在庫が見える化し、在庫が削減する!”と考えることです。売上・粗利の低下や在庫増加の原因の主たるものは、外的要因以外には、人そのものでしかありません。

ですから、自分たちの組織の長所や短所を具体的に把握した上で改善策を出し、人が産み出した問題を解決し、MD体系を整えない限りは、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しても、その高価なシステムは、間違いなく豚に真珠にしかなりません。(UAに限って言えば、決算月を3月末から2月末に変更する方が、DXの推進よりもよっぽど即効性のある効果が得られるだろう。このことも後日記事にしてみたい)

ですので、売上・粗利が低下。在庫が大きく残る要因は、外的要因以外は。。。

“人(社員)の仕事に取り組む意識が一番の要因である!”

そして、MD戦略の改善・改革に臨むには。

“社員1人1人の意識を変えることが、一丁目一番地”

だということを理解した上で、今回、取り上げた組織が、MD戦略の改善に臨み、多くの社員が幸せになる!そのような状況・結果に、この記事がきっかけになれば、嬉しく思います。

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