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(特別記事)決算書類から各社の今後の仕入見通しを考察してみた

★各社の先の仕入金額の見通しを立てる

現在、コロナ禍の影響で殆どのアパレル小売業は苦しい状況に立たされています。
緊急事態宣言等の影響による売上の減少から、在庫処理のためのセール施策を余儀なくされ、収益にも大きな影響が出ました。また、そのことで発注した商品をキャンセルして、(取引先より)引き取らないといった暴挙に及んだ組織も散見されました。実際、上場各社の決算関連資料を見てみると、現状の厳しい状況が如実に数字に表れていますし、今後の見通しも、各社厳しい見通しを立てています。
(予測することが困難ため、発表していない組織もある)

コロナ禍の影響が長引くことにより、これまでの在庫削減の施策だけでなく、今後は仕入金額の大幅な削減が予測されます。大幅な仕入金額の削減は、小売り側だけでなく、商品供給側の今後にも大きい影響を及ぼすことでしょう。一部のサスティナブルを標榜する人にとって、このことは喜ばしいことかもしれませんが、商品の仕入金額の大幅なダウンは、そのことに関わる業者さんの経営に悪影響を及ぼすだけでなく、アパレル産業の衰退が、更に加速していくことにもなります。そのことで、良い商品を作り続けている企業まで淘汰されることになってしまっては、悲しいことこの上ありません。

しかしながら、以前このブログでも述べたように、闇雲に商品の仕入金額を削るだけでは、売上が大きく下がる可能性も高く、先のしっかりとした見通しを立てる必要性があります。また、仕入の精度を上げるための努力も必要となってくるでしょうし、ある意味マーチャンダイザー(以下MD)の腕の見せ所でもあります。

闇雲に仕入を削れば、売上は想像以上に下がる?


そして、先の仕入金額を算出・把握しておくということは、取引先との交渉や、小売り側・商品供給側が互いに共存していくためにも、重要なことである!と思います。

ということで、今回のブログは、上場企業の決算関連書類から、各社の先の見通しを表を使って表現し、それぞれの組織の、今後の仕入金額の見通しを立てることで、商品供給側・小売業側それぞれが、この先の対応を考える材料となるような記事していく所存です。

 

★仕入金額を算出するルールと考察する企業を選定した理由

では、今回の(各企業の)先の仕入金額を算出する際のルールとしては?

・決算資料で発表されている見通しの数字を使用(売上・粗利率等)
・昨年の在庫回転や時点在庫が翌月以降の売上原価のどのくらいの金額があるのか?をベースに、私が各四半期の在庫金額を入力
・これらのことから、先の仕入金額を予測(今回は、損益計算書等の業績に関する考察は、殆ど致しません。)

以上になります。

そして、今回のブログでは上場企業3社の数字を分析し図を作成、先の見通しから仕入金額を算出していこうと思います。

今回、分析する3社は。。。

・しまむら
・TSIホールディングス
・ユナイテッドアローズ(以下UA)

です。何故、この3社を選定したのか?といいますと。。。

しまむらは、ロードサイドに多く店舗を展開しており、コロナ禍の影響が他に比べて少なかったと言われているから、というのが選定理由です。TSIホールディングスは、M&A等で多くの中小規模の会社の集合体になっています。コロナ禍の中、混在した様々な会社があることが、果たして、リスク回避に繋がったのか?いうのが、選定理由です。最後にUAですが、都心型のセレクトショップで、これも今回のコロナ禍の影響が大きかったと言えます。また、セレクト業態の多くの組織が在庫に問題を抱えています。その理由は様々ですが、その付加価値を保つために、セールできない商品も多い!という事情もあり、今回考察する企業に選定致しました。

ということで、しまむら→TSI→UAの順序で話を進めていきます。

 

★しまむら

しまむらは、第1四半期の決算説明会資料で、今期の見通しを前年ベースで。。。

・売上 99.5%
・粗利率 33.1%(前年より0.6%アップ)

とかなり強気の予想をしています。これは、第1四半期の数字は後述しますが、それなりにコロナ禍の影響を受け、数字はダウンしてますから、第2四半期以降は、前年以上の売上・粗利を獲得せねばなりません。
これは、秋からスタートするEC事業の売上を見込んでいるということになるのでしょう。(物流倉庫の横にEC拠点を増築する等、本気で取り組むようだ)では、この数字を基に作成した表が以下になります。


(表はPCでご覧頂けると幸いですm(__)m)

この表を見てわかるように、今期の第1四半期は、売上。そして粗利率も前年ベースで下がっており、((全店ベース)売上は前年の90%。粗利率は1.9%ダウン)それなりに苦戦していることが伺えます。しかしながら、しまむらの今期の業績見通しの数字を、私が各四半期ごとに数字を入れ、在庫回転を昨年並みとし、数字を入れていくと。。。(事実、第2四半期の6・7月の売上は、それなりに良い数字で推移している)

下期の仕入金額は、前年以上の仕入金額が見込めます。(私の試算だと、前年より約60億増)
これは、前述したように秋からのECスタートもありますし、比較的他社に比べコロナ禍の影響が、実店舗では少ないと推測されますから、これはありうる話であると思います。しまむらの取引先もとりあえずひと安心です。また、しまむらに関しては、商品のことは置いておいても、在庫意識の高い企業ですから、現実的にこの数字は、達成できる可能性は高いと言えるでしょう。(粗利率の先の見通しは、楽観的すぎる気はするが。。。)

 

★TSIホールディングス

TSIホールディングスの第1四半期は、コロナ禍の影響が大きく、売上は前年の約51%。粗利率は、前年よりも大幅減の約41%(約16%減)となっています。結果的に多くの中小規模の会社の集合体であっても、今回のコロナ禍によるリスクを軽減することはできませんでした。そして、TSIホールディングスは、第2四半期までしか先の見通しを発表していません。因みに、第2四半期の売上見込みは、前年の約90%ベース。粗利率が約42%の着地と予測しています。このことを反映させ、私が作成した図が下記になります。

まず、TSIホールディングスで気になるのは、この第1四半期の粗利率が低すぎる点です。前年の同時期の粗利率は57.4%ですが、今期は41.8%で、実に15.6%もダウンしています。(昨年同時期よりも、粗利率が減少しているということは、セール施策を強めたということになる。)

コロナ禍の影響で、売上が大幅にダウンし、春夏商品の在庫を処理するというのは、理解できるのですが、必要以上にセールしてしまったのでは?と推理できます。因みに後述するUAもこの第1四半期に在庫削減を強いられていますが、前年の54.7%が今期43.7%(約11%ダウン)となっており、TSIホールディングスほど粗利率がダウンしていません。

決算説明会資料に、各事業部ごとの粗利率が丁寧に記載されているので、確認してみると。主力事業の一つである、ナチュラルビューティーベーシックは、前年同時期と比べ。実に粗利率が約30%もダウンしています。姉妹ブランドの事業終了が影響を及ぼしているのでしょうが、決算説明会資料を見る限りに於いては、廃止ブランドが粗利に与えた影響は軽微だと考えられます。ということは、やはり必要以上にセール施策を実施したのでは?ということです。(更には、バッタ屋にかなりの数量を売ったのでは?というほどの粗利率の下がり方です。)

このようなセールし過ぎなのでは?という事象は、粗利のターゲット(あと売上を予測して売上原価を算出することが必要)を定めずに、在庫消化ばかりに気にして、適当にセール売価を設定すると、本来得るべき粗利を喪失するということが発生します。(当然、売上もその分喪失している)因みに、その他の事業部は、7〜15%ダウンといったところです。

TSIの場合は、各子会社によって、MDの特に数字面の仕事にバラツキがあると推測されますが、在庫金額だけに注視したセールのやりすぎは、ブランド・ショップに対する顧客からの信頼低下を招き、今後に大きい悪影響を与えることになります。在庫だけでなく、売上・粗利・仕入・在庫を連動して考え、施策を実行するということが、この組織の課題なのかもしれません。

ここで本題に戻り、この下期の仕入金額の見込みですが、先述したように、下期の売上・粗利見通しを発表していないため、算出が簡単ではありません。ですが、決算説明会資料に謎の文言が記載されていました。

その文言は。。。

”仕⼊抑制プロジェクトのスタート(下期70%)”

です。

これは、一体何の70%でしょうか?

(決算説明会の動画を見れば、この内容が詳しく語れれているのかもしれませんが。。。流石に見る気がしない笑)

昨年同時期の仕入金額の70%削減では、とんでもないことになりますから、おそらく、昨年下期の仕入金額の70%程度に仕入金額を抑えるということになるのでしょう。

ここで、疑問に感じるのは、売上・粗利等の先の見通しを立てないにもかかわらず、(社内では立てているのかもしれないが)仕入抑制プロジェクトと称して、仕入を抑制することだけを、社として目標設定をするのは、本末転倒のような気がしてなりません。実際、昨年ベースの70%の仕入金額ですと、凡そ半期で約120億円の仕入原価金額を削減するということになります。この仕入抑制プロジェクトによって影響を受ける、商品供給側の組織は多くあるでしょう。そして、仕入金額の削減目標だけを強調することで、MDの業務面にバラツキがある現状では、独立意識の高い子会社が、反発する局面も今後出てくると思われます。

また、MD視点でいうと、何度も言いますが、在庫金額だけ!仕入金額だけ!ばかりに、注視するような仕事をしては、更なる失敗を招く可能性が高まるだけです。売上・粗利・仕入・在庫を一気通貫で見ること。そして、そのことで先の施策を具体的に考えることこそが重要です。第1四半期にセールしすぎ、粗利を喪失した事業部が散見されますから、仕入の削減目標だけを強調するようなことは止めたほうがよいでしょう。そんなことでは、おそらく、今後に想定以上の悪影響が出る可能性が高まります。

 

★UA

UAは、第1四半期の決算説明会資料で、今期の見通しを前年ベースで。。。

・売上 80%~83%
・粗利率 47.2%~47.5%(前年より約4%ダウン)

という予想を発表しています。下記の図は、その予想を基に売上・粗利率の推移を予測し、決算在庫は前前年ベース並みで下記の図を作成致しました。前前年ベースでの決算在庫で着地すると予測した理由は、前期末在庫が、昨年冬物の残在庫とコロナ禍の影響の春物在庫が多くあり過在庫ですから、今期は、かなり慎重に仕入施策を実践すると考えられるからです。(UAは、3月31日決算)

私が作成したこの図から読み取るとれることは、UAは下期、前年ベースで仕入金額を約80億円ほど削減すると推測できます。TSIホールディングスほどの削減金額には至りませんが、それでもかなりの多くの仕入金額を削減すると予想されますので、商品供給側さんにも多くの影響が出るでしょう。但し、UAはセレクトショップという特性から、発注タイミングが早い商品が多いので、私が作成した計画よりも仕入金額が削減できない可能性も大です。

また、私の計画通りに数字が推移したとしても、在庫金額は高止まりしたままです。(四半期ベースの平均在庫算出ではあるが、年間在庫が3回転していない可能性大)しかも、UAが発表している先の見通しの売上・粗利の目標を達成するには、これまでと比べものにならないくらいに、仕入・発注の精度が高くしないと、私が作成した計画には至りません。ネットニュース等でも報じられていますが、今後ビジネス関連の等の商品計画の見直しも必須となるでしょう。更に言えば、キャッシュフロー改善も急務ですから、このことに影響を与えるMDやそれ以外の業務改革も急務だといえます。このことに関しては、私が書いた過去ブログを参照してください。

大手セレクト業態の業務見直しは、急務なのでは?~後編~

 

★コロナ後も仕入削減・在庫削減の意識は高まるだろう

以上。各社の決算関連書類から表を作成し、各社の今後の見通し。特に仕入金額の見通しを算出しましたが、しまむら以外の多く企業は、かなり大きい金額の仕入金額の削減を余儀なくされることとなる筈です。そのことで、商品供給側の組織は多大な影響を受けるでしょう。そして、コロナ後も各企業の在庫・仕入に対する意識が高まりますから、かつてのような”ザル発注”は、少なくなるのは必然です。こうした状況でありますから、商品供給側の組織は、特定の企業だけに固執しない業務体系が求められます。また、取引先やバイヤー。そして自分たちの都合を最優先するような仕事の仕方では、今後時代の波に淘汰されていくことでしょう。

ですから、これからの時代は、商品そのものの”付加価値”を、顧客視点で考え、品揃え政策を実践する!といった、小売業では当たり前のことが、求められるようになる筈です。

また、小売り側は前述したように、在庫削減・仕入削減の意識がこれまで以上に高まるのは間違いありません。しかしながら、このブログでも何度も述べているように、目先の狭い範囲しか見てない仕事の手法では、MDの仕事の目的である、”顧客に喜ばれる商品を必要な時期に必要な量だけ提供する!”ということを達成することはできません。目先だけをみて、闇雲に仕入を削ってしまえば、予測よりも更に悪い売上・粗利を叩き出す要因ともなります。だからこそ、売上・粗利・仕入・在庫を一気通貫で見ること、更に言えば、先の見通しをしっかりと立てて、具体的な施策を策定し、実践することが、この先のリスクを回避する策となります。

今回のブログは、かなりの長文となりましたが、このブログが何かしら皆様方のお役に立てれば幸いです。

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