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今年の3月は、仕事が少なく暇だったということもあり、来るべき仕事に備え?上場しているアパレル小売関連の決算資料を読み込んでいました。そんなときに、某企業の決算説明会資料を読んでいると、商品回転率なるものが目に入りました。おそらく、世間一般で言われる在庫回転率を表しているものだと思いますが、その企業に記載されていた商品回転率の数字は8.65でした。
アパレル小売で8.65以上の在庫回転率をたたき出す企業・組織は、このご時世では、かなり稀なように思われますし、この企業は、一般的に在庫回転が悪いと言われる、服飾雑貨中心の小売業でしたので、疑い深い私は、その企業の決算短信で数字を調べ、推定の在庫回転率を算出すると、想像の範疇内の2~3程度の数字になりました。(売っているものを考えると優秀だと言えるが。)
おそらく、この商品回転率なる指標の計算式は、
→(期間)売上(粗利益+売上原価(売価ベース))÷(期間)平均在庫原価
なのでは?と推測されます。これでは、株主やステークホルダーに誤解を与えてしまいます。また、回転率の本質を考えないままに、この数字を鵜呑みにしたマスコミが、「この組織は(商品)回転率が良い~!」と報道すると(実際に某マスコミが報道していた)、更に世間広くへと誤解を与えていまいます。
そもそも、小売業の組織が在庫回転率という指標を活用する目的は?、(企業・組織の)平均在庫がどのくらいの期間でお金に変わるのか?を表しますから、企業組織のキャッシュフローに影響を与える指標である!ということです。そこで、在庫回転率の数式を以下記載すると。
→在庫回転率(期間)売上÷(期間)平均在庫
(在庫回転率の詳細は、私が書いた過去記事をご覧ください。)
となります。
在庫回転の計算式に、売価・原価・数量のどれを当てはめても間違いないのですが、一番実態に近い数字が出てくるのは、数量です。何故ならば、数量は絶対変えられないものだからです。売価でも構いませんが、セール等の売価変更をするたびに数字が大きく変化します。また、原価も評価減という制度で、原価を変更することが出来ます。しかしながら、数量はどうやっても数字を変えることは出来ません。
(*一般的には、ほぼ変更されることのない原価を用いることがベターである。点数管理に固執すると粗利を喪失する可能性が高まる。原価管理ならば粗利と連動で管理できる。また、売上は売価。在庫を原価にする等のことは、在庫回転の本質からいうと、本末転倒な使い方である。)
上記の在庫回転率の数式に数量を当てはめると、在庫回転率を上げるには?
① 売上数を上げる
② 平均在庫数を減らす
このどちらかの施策を行えばよいわけです。
ここで少し話を変えますが、一般的な平均在庫を導き出すと言われる数式は?
→期首在庫(原価)+期末在庫(原価)÷2=平均在庫(原価)
と言われます。しかしながら、注意しなければならないことは、期首在庫と期末在庫の期間が長いと、実態とはかけ離れた平均在庫が算出されます。
例えば、1月末決算のあるアパレル小売の組織があったとします。これを決算期間である1年単位でみると、期首在庫は決算年の前年の2月1日の営業前在庫。期末在庫は決算年の1月31日の営業終了後在庫。ということになります。アパレル小売りの特性を考えれば、1月末や2月頭は在庫が一番少ない時期である可能性が高いですから、上記の数式を使い平均在庫を算出すると、実態よりだいぶ低い平均在庫が算出されるので注意が必要です。
私は、良く決算分析記事で推定在庫回転率を算出していますが、上場企業の場合は、3か月ごとの数字しか出てきませんので、実際の平均在庫よりブレが大きい!という意味で、あくまで推定であるという注意書きをしています。ですので、何が言いたいのか?と言いますと、平均在庫を算出する一般的な数式は絶対ではなくベターでしかない!ということを理解して頂きと存じます。
話を戻しまして、在庫回転率を上げるには、上述したように2つの方法が考えれます。
特に、①のポピュラーな手段として考えられることは、セールを行い商品を売る!ということです。しかしながら、セールをして商品を売ると粗利率が低下し、粗利益を喪失する可能性が大になります。在庫消化をばかりを意識するばかりに、セールを繰り返すと、在庫回転は上がるが、組織が赤字に陥る可能性が高まります。ですから、交差比率(粗利率×在庫回転率)というような指標があると考えると良いでしょう。(因みに、上記の組織の商品回転率の数字がおかしい?と直ぐに気づけたのは、この組織の粗利率が想像以上に高かったから)
また、平均在庫数を少なくすることを意識しすぎると、売上が低下の可能性が高まります。自分たちの商売の特性・仕入形態・顧客の特性等を考えれば、色・サイズ展開を増やさなければ、お客様に見向きもされない。リードタイムが3ヵ月かかるので、初回の商品発注数が必然的に増える等の事情がある筈です。この場合は、自分たちの組織のMD予算設計を緻密に行い、在庫のストーリーを設計した上で、組織にとっての目指すべき在庫回転率を算出しなければなりません。
アパレル小売において、組織・企業のキャッシュフローに影響を与える在庫回転を正しく理解するということは、組織・企業の経営にとって、とても重要なことです。ですので、数式だけを覚える等の頭でっかちな理解ではなく、(数式を)嚙み砕いて考える。現場や自分の実務と結び付けて考える。ということを繰り返して、正しく理解してもらえればと存じます。
この度は、記事を読んで頂きありがとうございます。次回もよろしくお願いいたします。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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