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MD的視点でファッション雑誌・メディアが運営するECを考える

★ファッション雑誌・メディア系が運営するECの気になる点

最近、SNSを見ていていると、ファッションメディアやファッション雑誌系の自社ECに関する投稿をよく目にします。ファッション雑誌やファッションメディアが、自社ECを始めだしたのは、最近ということではなく、これは下記の深地さんの記事でも書かれているように、10年以上前から始まっていたようです。風の噂で聞いた話では、取組が早かったところは、かなりの売上があるようです。

ファッション雑誌がカタログ通販に見えてきた今日この頃


ファッション雑誌やメディア等が、自社ECに取り組む理由として考えられるのは、部数の減少や広告収入の減収等で、新たな収益源が必要になっているということなのでしょう。しかしながら、MD視点で上述したようなメディア系の自社ECを見ると、気になる点もありますので、今回はファッション雑誌・メディア系ECの懸念材料を取り上げます。

★ファッション雑誌・メディア系が、自社ECに取り組むメリットとデメリット

先ず、上述した深地さんの記事を拝読し、このようなファッション雑誌・メディア系が、自社ECに取り組むメリットを考えると。

「(初めての店舗経営でも)集客力がある!」

このことではないでしょうか?
そもそも、私のような名の知れね素人が、自社ECショップを立ち上げても、自社サイトまで集客すること自体が至難の業です。しかしながら、雑誌やメディアの場合、そもそもの知名度・認知度が高いわけですから、これだけでショップを運営するアドバンテージが大きいということになります。因みに、最近自社EC商品の投稿が目立つファッションスナップは、Twitterのフォロワー数で193.5万人。Instagramで42.6万人いますから、フォロワー数300人そこらで自分のショップを構えるよりも、圧倒的に有利だといえます。
また、雑誌は有名人やインフルエンサーの起用も、その性質上有利ですし、ブランド等とコラボもしやすい環境にあります。更に言えば、雑誌連動企画等、読者にとって魅力があるコンテンツを構築しやすいことも確かでしょう。(この辺のことは、上述した深地さんの記事をご覧ください)

ここまで、ファッション雑誌・メディアが自社ECを立ち上げるメリットを掲げましたが、MD視点でみる一番デメリットでは?と感じる点は?

「在庫を持たなければならない!」

ということです。
なかには、委託で商品を借りている?ということもあるとは思いますが、このこと自体も懸念材料となりえます。では、私がファッション雑誌・メディア系の自社ECで、懸念している点を以下掲げますと。

①値入率が悪い(仕入原価率が高い)
②高い在庫回転率を期待できない

他にもあるとは思いますが、私は特にこの2点を懸念しています。では、項目ごとに話を進めていきます。

①値入率が悪い(仕入原価率が高い)

雑誌・メディア系の商品ラインアップを見てみると、その殆どが有名?ブランドのセレクトとなっています。ということは?値入率が低い(原価率が高い)と想像されます。更にいえば、委託仕入の場合は、更に値入が削られます。雑誌やメディアのメリットとして、認知度の高さからくる宣伝効果等もあると思われますので、その分値入を考慮されている可能性も高いですが、それでも基本は値入率が50%を下回ると想定されます。
また、一部の雑誌等では、自企画商品等もあったりしますが、実店舗を持たないECのみの展開ということを考えますと、スケールメリットは出しづらい筈ですから、言うほど値入が良くなる!ということはないと考えられます。


結果、損益構造としては、粗利率が低い!ということが考えられます。ECのみでの運営になりますから、販管費が低い可能性は大ですが、それでも粗利率が低いということは、黒字を達成する為の売上のハードルがあがります。
また、売れない商品をセールすると、思った以上に粗利を削られてしまう品揃えでもあります。例えば、掛率60%(値入率40%)で仕入した商品が売れずに、40%OFFでやっと売れた。すると、粗利益は0になります。しかしながら、ブランド品なのでセールしづらい_| ̄|○という考えから、セールをする判断が遅れてしまうと在庫の山が積みあがるだけです。

②高い在庫回転率を期待できない

次はこの問題です。上述したように、雑誌・メディア系の品揃えは、他社仕入商品が殆どということになりますから、商品発注は展示会を見てからの判断になります。このブログで何度も述べているように、海外・国内ブランドとも商品の発注タイミングは、かなり早くなります。場合によっては、半年以上前に商品を発注しなければなりません。しかも、年2回の展示会ブランドですと、1回の展示会で半年分の売上の仕入をしなければなりません。
このようなブランドは、シーズン始めに、発注した分が一気に入荷する傾向が強いですから(そうでないブランドも多々あるが)、例えば、春夏商品が2月に一気に入荷してくる。売れるのは、3月~6月にかけてですから、2月が在庫Maxで、あとは売り減らしということになります。この場合、平均在庫が高まり在庫回転が悪化します。更に言えば、仕入商品の支払いは3月末に一括で支払わなければなりませんから、まだ在庫はそんなに減ってないけど、お金は先に出ていく!というように、手元のキャッシュが減少し、キャッシュフローが良くなりません。そのことを補う方法として、事前に商品予約を受け、先にお金を頂戴する!という方法がありますが、この方法だけで、大きい売上を獲得することは不可能だといってよいでしょう。

★ファッション雑誌・メディア系が運営するECの懸念点を解消するには?

結果、①②の懸念材料から見える点は、MD的には極めて難しい運用を強いられるということとなります。では、この問題を改善する為には、どのようなことが必要なのか?を、以下、私の独断と偏見でお伝えしますと。

まずは、「(商品の)目利き力を磨け!」ということです。

これは、当たり前のことになりますが、上述したようなセレクト業態は、商品の目利き力を磨くしかありません。しかしながら、そんな目利き力をもった”スーパーバイヤー”が、簡単に育つとも思えませんし、これは人材獲得という運の部分に左右されます。ということで、目利き力を補う為に必要なことを以下お伝えしますと。

●詳細な商品分析が出来るように、商品管理ルールを設計すること
●予算計画等の事前準備をしっかりと行うこと

この2点です。

●詳細な商品分析が出来るように、商品管理ルールを設計すること

商品の目利き力をもったバイヤーが囲えないならば、商品の分析をしっかりと行い、先の発注に結び付けるしかありません。そして、このことで重要なのは、常々申しているように、”適品””適時””適量”の分析が行えるように、商品管理ルールをしっかりと設計する必要があります。”適品”に関する商品管理ルールは、以下の記事に記載しておりますので、こちらの記事をご参照ください。

カテゴリー選定はMDにおける重要な部分


また、雑誌・メディア系のECサイトを見て気になる点は、「ショップコンセプトってあるの?」ということです。雑誌は、そもそものコンセプトがある筈ですから、比較的にコンセプトに沿った品揃えがしやすい筈です。しかしながら、メディア系のECサイトは、ただただバイヤーの趣味・感覚での発注なのでは?というケースも散見され、コンセプトから見えるスタイル。そして、顧客像が全く見えてきません。一度、自分たちが元々持ち得ている長所を鑑みた上で、ショップコンセプト。そして、そこから見える顧客像の具体化等を、再構築する必要があるのではないでしょうか?

●予算計画等の事前準備をしっかりと行うこと

これは、私が良く訴えていることですが、何か新しいことを始める際は、”事前準備である「前始末」をしっかりと行っておけ!”ということです。
”隣の芝生は青く見える”的な発想で、「あの雑誌のECは売れているらしいから、ウチも始めようぜ!」的な発想で、とりあえずECショップを構えた場合、結果、在庫が積み上がって大変!的な後始末が増えます。後始末は、お金もかかりますし、精神的にもきついことです。しかしながら、事前準備である”前始末”は、基本的に大して費用はかかりませんし、仮に売れなかった場合も、その事前準備をするという行為自体が、リスクヘッジとなりえます。ECに関しての事前準備は、以下の深地さんの記事を、ご覧になると良いと存じます。

ECの売上計画はどう立案したら良い?


上記の深地さんの記事をご覧頂き、ECの損益計画が完成したら、損益の売上・粗利・売上原価を基に、MD予算設計を行うことが、更なる前始末の精度を上げることになります。展示会発注が殆どのセレクト業態は、MD予算を設計すること自体は、そうは難しくないので、前述した商品管理ルールを設計した後に、ショップの売上・粗利・仕入・在庫予算を作成することをオススメします。MD予算設計に関しましては、過去に繊研plusさんで連載をしていましたので、下記の記事を参考にしてください。

算数で極める達人MDへの道《第2講》(全39話あります)

今回の記事はこれで終了です。
繊研plusさんで、新連載が始まりました。ぜひご覧くださいm(__)m

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