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今回はリードタイム(以下LT)の長短が在庫に与える影響をお伝え致します。LTに関する記事は、過去にも何度がアップしていますが、できるだけ読者の皆様方にわかりやすくお伝えしていく所存です。
先ずは、アパレル小売業においてのLTの説明を、ごくごく簡単に致しますと、(MD等が)商品の発注数量を決定してから、店頭(場合によってはセンター倉庫)に商品が入荷するまでの期間のことを指します。例えば、11月1日に商品の発注数量を決定し、商品の供給先に伝え、12月1日に商品が店頭に入荷してくれば、LTは1か月となります。
先にLTの長短が在庫に与える影響の結論を申しておきますと、LTは短ければ短い方が圧倒的に在庫が増えにくくなります。アパレル小売業のLTが大幅に短縮されれば、アパレル小売の在庫問題の多くの部分が解決されるでしょう。しかしながら、多くのアパレル小売業が、商品を海外生産に依存している現状では、LT2か月でも早い部類で、3か月以上かかる場合が殆どです。また、中国・東南アジアの場合、旧正月などの長期休暇が絡むと、更にLTが長くなります。また、国内生産の場合は、すべて材料が揃えばLTが短縮できる可能性がありますが、生地があっても付属が届くのに時間がかかる等のことが重なると、LTは長くなってしまいます。この業界の識者がいうような、クイックレスポンス(以下QR)の実現は簡単ではないし、ほぼ不可能と考えた方が良いでしょう。
しかしながら、上述した識者等がなぜQRを訴え続けるのか?と言いますと、アパレル小売業にとって、LTの長さはデメリットしかないからです。特にデメリットになりうることは、以下の2つです。
●平均在庫が増加する
●発注タイミングが早いので、(売上)予想を外す可能性が高まる
では、項目ごとにお伝えします。
この件に関しましては、多くの方が知っておられることだとは思いますが、改めて端折って説明致しますと、例えば、販売期間3か月・LT3か月の商品があった場合、商品は3か月分の売上予測分の仕入を一気に行わなければなりませんから、商品の売りはじめは、在庫が膨らみ平均在庫にも悪影響を与えます。また、仮にこの商品が売れなかった場合は、多くの不良在庫を抱えることになります。しかしながら、販売期間3か月・LT1か月の場合は、商品の発注を極論でいえば、売上1か月分のみ発注し、その後は売上状況を鑑みながら、商品の追加発注が可能となります。仮に、この商品が売れなかった場合は、途中で商品の追加発注を止めればよいのですから、それほど在庫が増えることはありません。
現在は11月です。11月は多くのブランド・ショップは、防寒アウター中心の売り場構成になっている筈です。しかしながら、報道されているように・9月10月の高温で、防寒系アウターの動きは鈍くなっています。今後も高温傾向が続くようだと防寒アウターの在庫が多く残ることが予測されます。これもLTの長さが要因の一つであることは間違いありません。防寒アウターは、アパレル小売業の中でもLTが最も長いアイテムだとも言われています。これは商品の生産背景の問題が多々あるのですが、今回はこの件に関しましては語りません。
話を戻し、防寒アウターの場合、LTは3か月はまだよい方で、半年前発注は当たり前、中には1年近く前から商品を発注しなければならない場合があります。今年の夏・秋は、気象庁の観測史上でも例をみない高温になりましたが、多くの組織が暖冬シフトでMDを組んでいたと存じます。(事実、多くの組織のMDの方からこの話を聞いた)ですが、ここまでの高温傾向になることを予測していた組織は、ほぼ皆無だといってよいでしょう。仮に高温傾向を読んで、防寒アウターや冬商品の売り場構成を下げたとしても、防寒アウターの変わりになる、多くの売上を獲得できる商品を確保するのも難しいのでは?と言わざるえません。
では、LTが長いことを前提として、売上・粗利の確保しながら、在庫を必要以上に増やさない為にはどのような対策があるのか?を、以下、私の専門であるMD視点で、基本的なことをお伝えします。
当たり前のことですが、このことです。私自身の過去の経験を鑑みても、一つの大ヒット商品が、多くの局面を打開します。しかしながら、先述したように、防寒アウターの売上構成比を大きく下げて、MD設計をしても、違うアイテムでヒット商品を出すのは、至難の業と言えますから、デザインの追求のみならず、顧客視点からの生地のイノベーションや、また発想自体のイノベーションが必要となるでしょう。
LTが長く、商品の発注タイミングが早い組織ほど、商品を発注する前までに、組織としてどのようなことができるのか?このことを具体的に可視化しておく!このことが重要です。スケジュール管理が出来ておらず、行き当たりばったりの仕事をするような組織・MDが、LTの長さを克服するのは難しいと言わざるえません。
ブランドやショップにとっての過去データは、何よりも重要な貴重な財産です。このことを軽視する組織が、AIやデジタル活用を謳っても、それは達成不可能なただの洞同然です。ですから、このブログでも何度も記載しているように、自ブランド・ショップの商品の分類ルールを、具体的に設計することが何よりも重要です。抽象的な分類では、正しい商品・顧客分析はできません。商品分類に関することは、以下の記事を参照してください。
また、シーズン終わってからの検証を具体的にしておくことも大事です。数字の分析は、しっかりできていても、仮説を入れた検証がしっかりと出来ていなければ、何度も同じ失敗を繰り返すので、シーズン終わりの検証をしっかりとして、先の未来に繋がるものを残しておきましょう。
MDにとって、常に気象情報を入手しておくことは重要です。短期のみならず、中長期予報も常にチェックしておきましょう。(気象庁やウェザーニュース等、複数の組織の情報をチェックしましょう。)特に気温と(自社組織の)商品の動きの分析・検証は、今後更に重要性を増すでしょうから、主観のみ結論ありきの感想を持つのではなく、事実に基づいた検証・分析を、やりすぎなくらいに行うことが重要です。
今回、記載したこと以外にも、MD予算設計を緻密に行う、期中でのOTB運用の精度上げる等、LTの長さを克服する対策はたくさんありますし、当然組織によって、相対的に実践すべきことは変わってくるでしょう。しかしながら、QR等LTの短縮に期待することは、ほぼ無意味なのですから、自分たちの組織にあったLTの対策を具体的考える・実践することこそが、LTの長さのデメリットを補う為には重要だ!ということを訴えて、今回の記事は終了です。
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【(株)エムズ商品計画オフィシャルサイト】(株)エムズ商品計画代表取締役。大分県大分市出身。リテールMDアドバイザー。繊研新聞社より「数学嫌いでも算数ならできる筈〜算数で極めるMDへの道」出版。大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。唯一の趣味は古着収集。
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